【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

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雪の向こうのちいさな村

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 ふうわり紅い陵に、ぎゅっと手を握られる。


「あ、あのあのい、いいい意味が、わわ解らな……」


「すぐわかるよ、結芽」

 長い指が、私の髪を撫でた。
 頬を、うなじをそっと撫でて、名残惜しそうにステアリングに戻る。

 また走り出した漆黒の車に、安心したのか、がっかりしたのか、解らない。


 鼓動はとくとく駆けたまま。
 目は陵から逸らせないまま。
 繋がる指は、ほどけないまま。

 山道を、奥へ、奥へ、真っ白な世界の向こうへと駆けてゆく。







「温泉の評価が☆3.2なのが不服でさ、ちょっと頑張ったんだよ。
 楽しんでもらおうと思ってたのに、大雪で停電して使えなくなった。ごめん」

「あ、あの、て、停電になったら、泊まるところ、ないんじゃ……」

 あわあわする私の手を、陵の大きな手が包みこむように握る。


「俺の家においで」

 桜の唇が、弓を描く。


『よろこんで――――!!』

 両手を挙げたくなったよ!


「そ、そそそそれは、あ、あのあの……」

 あわあわわたわたする私に、陵は喉を鳴らして笑った。


おさの家だ。
 夏は旅館に泊まり切れないお客さんとか、よく泊めてるんだ。
 俺ひとりしかいない訳じゃないから、安心して」

 ……がっかりしたとか、言えません。


「……結芽の隣は、俺がいいけど」

 きゅ、と繋がった指を握られる。

 見あげたら陵が、とびきりの芳しいかんばせで、笑ってくれる。



 めちゃくちゃ、癒される。
 夢みたいだ。

 顔が熱い。
 頭がぽーっとする。

 気を抜いたら泣いちゃいそうなくらい、夢の世界だ。


 あやしさ満開の煽り文句は、嘘じゃなかった――!

 いやいやいや、ここから『お金欲しいな♡』が来るのかもしれないけど!
 全財産貢いじゃいそうだけど!

 き、気を引き締めていこ――!


 ………………できるかな。
 できる気がしない。






 漆黒の車が山のなかの雪道を掻き分け、ようやく止まったそこは、時代劇に出てきそうな、ちいさな村だった。

 深山の雪に包まれた茅葺きの屋根が、ぽつり、ぽつりと白い世界に色を落とすように佇む。
 煙突からは、白い湯気が零れていた。
 雪の舞う、ほの白い空を、鳥が渡ってゆく。


「わあ――!
 昔話の世界みたい!」

 喜んで車から降りた瞬間、

 ズルッッ!

 思いきり、滑った。


 情けない……!
 恥ずかしい――!

 でもこんなに雪が積もっていたら、転んでもあんまり痛くないんじゃないかな。

 べしゃりと冷たい雪に埋もれるだろうと身構えたのに、降ってきたのはあたたかな腕だった。


「だいじょうぶ? 結芽」

 心配そうに眉をひそめる陵の美貌が、ち、近すぎる――!








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