【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

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夏はうちわが振れるそうです

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「きゃああ……!」

 燃える頬で蹲ったら、菫の髪がぽわぽわ揺れた。


「陵、おひめさまに、なんてことするんだ!」

「そ、そうだぞ、ちょっと背が高いと思って!」

 麦が悔しそうに叫んで、目を瞬いた菫と陵が顔を見合わせて笑う。


「陵が気に入らなかったら、いつでも僕がひめのお傍に仕えるからね」

 きゅ、と絢がたおやかな手で、手を握ってくれる。

 パリ
 ちいさく紫檀の光が舞った気がした。


「ぼ、僕も!」

 ちいさな手で、菫が手を握ってくれる。

「俺も!」

 麦が笑って、手を繋いでくれた。



「何だよ、皆で来るなら傍仕えの意味ねえだろ」

 ふくれる陵の肩を、絢の手が叩く。


「冬はほんとにおひめさまが来てくれないから、皆うれしいんだよ。
 傍仕えは陵になりましたが、僕ら皆でおひめさまにお仕えします」

 とろけるようにやさしい榛の瞳で笑ってくれた。








 陵と絢、菫と麦が、いかめしささえ感じる古い古いお邸のなかを案内してくれる。
 客室は離れにあるらしく、渡殿を通るという。
 邸のなかから続いている屋根のある渡殿から、お邸の庭が見渡せた。

「わあ……!」

 真っ白な雪に覆われる庭で、南天が紅い実をつけている。
 広やかな池では錦鯉が、あざやかな朱と黒の尾をなびかせた。
 雪をかぶる樹々が常盤緑の葉を覗かせて、雪をまとう山茶花がきらめいた。

 ……ほ、ほんとに御殿だな……!
 仰け反りながらサイトの口コミを思い出す。

 夏の口コミ

『芋洗い! イケメンが遠くからしか堪能できないよ!』
『しかしアイドル感が半端ないので、夏も意外におすすめ』
『推しの名を書いたうちわを持ってゆくと更に雰囲気が出る』
『古い旅館でエアコンが効かなくても、山奥なので涼しい』
『受付さんやお膳を運んでくれる人も皆イケメン。村一番のイケメンは遠いが、受付さんの顔光でさえくらくらする。全く問題ない』
『イケメンは夏も尊い』

 冬の口コミ

『秘境感が半端ない』
『雪に埋もれる』
『古い旅館なので隙間風が痛い』
『寒くて泣いた』
『室内でもダウンコート必須。雪国育ちの寒さに強い人ならいけるかも?』
『人がいないので、行くなら絶対冬!!
 しかしうっかり道に迷って遭難すると真剣に死ぬので注意!』

 とあった。

 え、絶対冬でしょ!!
 人のいない雪の里で、イケメンに癒されたい――――!!

 と思って、ダウンコート完備で思いきり冬に来たけど、大当たりみたい?
 夏だときっと遠くから皆を拝むだけのような気がする。

 今は陵と絢と菫と麦が部屋を案内してくれる豪華さ!
 でも陵のうちわを持って振るのは、とても楽しそうだ。


「今、何考えた?」

 凛々しい眉をひそめる陵の手を、ちょっと熱い頬で握る。

「陵の名前を書いたうちわを振るのは楽しそうだなって」

「……は?」

 目をまるくする陵に、絢が吹き出して笑った。





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