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元凶
しおりを挟む一瞬で王太子の顔になったセオが、ちいさな身体で対等の存在であることを示すように顎をあげた。
「迎えに感謝する、バギォ帝国帝王。エゥリケ王国王太子、セオ・ジオ・エゥリケである」
じぃじと護衛さんたちが隣でうやうやしく頭をさげる。
こうべを垂れるふりで、透夜と隠密団の皆はバギォ帝家から距離をとった。
「……こいつか」
透夜の声が低くなる。
常葉が、藤が、柳が、紅蓮が、獲物に手をのばすのを、目で制した。
今、帝王を殺したら『よい子の隠密団』は逆賊だ。
暗殺人形の顔など、ひとつも憶えていないのだろう。
命令のままに動く駒を少し失ったことなど、痛くも痒くもないのだろう。
それは透夜にもありがたいことだった。
「心置きなくやれるなあ」
かすかに嗤う自分がいる。
「……とーや?」
ロロァが心配そうに裾を引っ張った。
見つめた透夜は、ロロァと目をあわせるために屈む。
「わがきみは、復讐を、どう思いますか」
「……ふくしゅう?」
透夜は頷く。
「仲間をたくさん殺した者は、死ぬべきでしょう?」
どこかあまい声だった。
ほんとうの正義なんて、誰もに等しく認められる正義なんて、どこにもないのに。
人の数だけ、思いの数だけ、正義は存在するのに。
正義の鉄槌を振り下ろす、それは滴り落ちるような甘い腐臭の、とろけるような愉悦の薫る、復讐だ。
「トゥヤ」
今にも刃を剥きそうな透夜を止めたのは、常葉だった。
「僕らを止めておいて、トゥヤが出るとかないよ」
長い髪を揺らして、藤が鼻を鳴らす。
「やるならひっそり、誰にも犯人が解らないように、だろ?」
白い歯を見せて笑う紅蓮が、とても頭よさそうだ。
「皆で、行く」
柳の言葉に、目が覚める。
そうだ。
復讐するなら、皆で。
孤児を暗殺人形に変える秘法を叩き潰すなら、皆で。
顔をあげる透夜の手を、ロロァのちいさな指が握る。
「……ふくしゅう、だめだよ。とーやが、皆が、真っ暗になっちゃう。そんな価値、こいつにない」
目をまるくした透夜が、皆が、吹きだして笑う。
「ロロァさまが、一番ひどい!」
お腹を抱えて藤が笑った。
帝家のほうから、身なりのよい男が進み出る。
記憶は壊されているが、その顔にぼんやり見覚えがあった。
指令を受けたような気がする。
壊された記憶が頭の奥でゆうらりよみがえろうとして、消えてゆく。
指令を出した者の貌も声も忘れるように、強力な暗示が掛かっていたのかもしれない。
思い出す記憶さえ、ないことにされていたのかもしれなかった。
それでもわずかに見たことがある気がするのに、使う方には手駒の顔を憶える気はないらしい。
『よい子の隠密団』の顔を見ても、表情はひとつも揺らがなかった。
「冒険者同盟の『よい子の隠密団』の皆さんですね。バギォ帝国宰相を司る、ロド・ボフマです。国境からの護衛、ご苦労でした」
白い髪を撫でつけながら微笑んでねぎらってくれる宰相は、冒険者にも名乗って挨拶してくれる、よい人らしい。
人を人とも思わない帝家とはすこし違うのかもしれなかった。
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