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やさしいよ

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「弱いのに、なんで向かってくるんだろう? 俺らが『よい子の隠密団』じゃなかったら、殺されるぞ?」

 心底不思議そうな紅蓮に透夜も頷く。

「だよな。殺す方がちょっと簡単だし」

「弱いと、相手の力量、わからない」

 喋られるようになった柳の突っ込みが正確だ!

 ドドドドドォン──!

 のんびり会話しつつ19人の暗殺者を一瞬で昏倒させる『よい子の隠密団』に、エゥリケ王国の皆さんが青い顔でカタカタしてる。

『暗殺者襲撃あり。19人捕縛済み。回収願う』

 透夜が精霊さんの力を借りて通報弾を撃ちあげると、すぐに応える炎の玉が上がった。
 その速さに、藤が笑う。

「近くの街の皆さんの対応も慣れてきたよねー」

『エゥリケ王国の王太子が帝都に向かっている。暗殺者の襲撃多数、通報弾が撃ちあがった場合は速やかに回収に向かわれたし』
『街の警備を厳重に、不審者を捕縛するように』
 との通達が、すべての街に届いたらしい。

 最初はあんぐりしてた町の衛士さんたちが『おお、これが噂の!』みたいな反応になってきたよ。

 すぐに暗殺者を連行するための幌馬車を何台も率いて出発してくれたのだろう、遠くであがる土煙に常葉が笑う。

「はちみつ持ってきてくれるもんね」

「わがきみの分も」

 微笑んだ透夜が、ロロァの頭をやさしく撫でる。

「えへへ」

 朱い頬で唇をほころばせる、わがきみが天使だ。



「トゥヤと皆は、ほんとに、ものすごく、強いんだな」

 どんどん増える暗殺者と頻繁な襲撃も物ともしない透夜と仲間たちに、セオがあんぐりしてる。

「ひどい方法で得た力だけど、だからこそ、わがきみを、ユィルを、キァナを、セオを守れる」

 拳を握る透夜に、幌馬車から出てきたじぃじが頭をさげる。

「これほど安心して眠れたことは、なかったですじゃ。誠に、誠に、ありがとう」

 深く垂れられたこうべに、透夜は首を振る。

「仲間を守るのに、礼はいらない」

「そうだよ、じぃじ!」

 常葉が笑って、皆も笑う。


「じぃじも、セオも、なかまだよ」

 微笑むロロァが、天使だ。


「……う、うん。ありがとう、ロロァ」

 朱い頬でもじもじするセオは、可愛いけど、でもちょっともやってとするけど!

 やっぱり、やきもちを呑み込んで微笑んでこそ、スパダリだと思う!


「張り切っていこー!」

 帝都まで、あとすこし。




 夜はちゃんと街で宿に泊まる。
 お金があるのもあるけど、幌馬車で寝てると、逆にあやしいからだ。

 ふつう護衛を連れた商人は宿を取る。
 なので、目立たないようにエゥリケ王家のお金で宿をとり、ふかふかの寝台で眠れる。

 藤と常葉だけじゃなく、透夜も皆も大喜びだ。


 しかし夜中が一番襲われる時間なので『よい子の隠密団』が交代で見張りに立っている。
 護衛さんたちを信用してない訳じゃないけど、たぶん油断してなくても殺されそうなので、殺されない孤児仲間の皆が見張りに立つ。

 ほんの短時間睡眠で3日くらい働ける皆にとっては、ふかふかの寝台で眠れる時間がちゃんとあるだなんて、めちゃくちゃやさしい任務だ。

 皆の顔が、輝いてる。




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