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走りたい

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「よし、じゃあ行こう。じぃじは行くだろ? 護衛部隊は連れてく?」

 透夜の言葉に、じぃじも護衛部隊も頷いた。

「一応公式訪問ですので、お願いしたいですじゃ」

 ロロァの治癒魔法で回復したじぃじと闇衣の四人が深く頭を下げてくれる。

「おたすけくださり、誠に、誠にありがとうございました」

 ぴょこんと跳びあがったロロァが首を振る。

「う、ううん。……あの、よくなったなら、よかったです」

 照れくさそうに微笑むロロァが、天使だ。


「トゥヤさまも」

「俺じゃなくて精霊さんだから」

 透夜が指をかざすと、精霊さんたちがちらちら光の玉になって揺れて、笑ってくれた。

「す、ばらしい……! 加護をお持ちか!」

「いや、腹減りの精霊さんたちと仲良くなっただけ」

「なんと!」

 じぃじが仰け反ってる。

 腰が心配だよ、じぃじ!


「孤児の皆で一緒に暮らしてるんだ。セオのお世話するついでに、皆の勉強とか、じぃじが見てくれたら、すげえうれしい」

 全くスパダリじゃなくて至極残念だが、たぶん透夜に、この国の優秀な子どもたちに教えられる脳みそは備わっていない。


「……おゆるしいただけて、活躍する場までお与えくださるとは……」

 涙ぐむじぃじに、透夜は微笑んだ。

「セオの願いだ」

 ほんのり赤くなったセオが、照れくさそうに、うれしそうに、じぃじの皺の手を握る。

「これからも、じぃじとゆく!」

「……セオさま……!」

 涙をこぼすじぃじを、セオのちっちゃな腕が抱きしめたら出発だ。


 じぃじと護衛部隊の皆さんが用意してくれたのは、いかにも王太子が乗ってます、というキンキンキラキラな馬車ではなく、一般人が乗る馬車にしてあるが、それでも裕福な商人だかお坊ちゃんだかが乗っていそうな仕様だ。

 こんな鄙びた温泉地を走るのは、明らかにあやしい。

「あー、これに乗ってくのは『襲ってください』って垂れ幕を掲げてるようなもんだぞ」

「たれまく?」

 常葉が首をかしげてる。

 垂れ幕なかった!

「え、えと、旗を立ててるみたいだぞ!」

 言い直してみた!

「し、しかしこれは庶民の馬車で……」

 じぃじがうろたえてる。

「裕福な平民の馬車だ。ふつーの庶民が乗ってる馬車は、もっとオンボロで、ガッタガッタ揺れる」

「なんと!」

 庶民を知らない裕福なじぃじが、うらやましくなったりなんて、しないんだからな!

「護衛も少ないからな。暗殺部隊を殲滅しなくても、無事に帝都に着けたらいいんだろ? 走ろうぜ!」

 白い歯を見せて笑ってみた!

 常葉と藤が涙目になってる。
 柳がうつろな目で、親指を立ててくれてる。
 紅蓮だけが白い歯を見せて笑い返してくれた!

「は、走るのか!」

 ちょっと辛そうにしてるけど、走ってくれそうなセオがすごい。

「わ、わしは、足腰がちょっと……」

 走るじぃじはかっこいいんだけどな。残念だ。

「いやでもじぃじ、強いだろ」

 透夜の突っ込みに、じぃじは真っ白な眉を下げた。

「寄る年波には勝てませんでな、走ったりが難しくなりました」

「なるほど」

 ちょっと考えた透夜は、ぽんと手を打った。


「じゃあ俺がじぃじを担ぐから、常葉はロロァさま、紅蓮はセオを背負って走ってくれ」

「りょーかい!」

 白い歯で親指を掲げる紅蓮の隣で

「ムリムリムリムリムリ! 僕は無理だから!」

 常葉が泣いてる。






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