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愚かでした

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 戻ってきたセオに、透夜は眉をあげる。

「じぃじー、風呂、入ったー、何か拭くもの──」

 水のしたたるかわいい男の子(見た目は)セオが、涙のじぃじに跳びあがる。

「な──! じぃじ! どうした! こいつらにいじめられたのか!
 く、くそう! 俺だけでなく、じぃじまで! なんてわるい輩なんだ──!」

 拳を握って仁王立ちするセオが、すっぽんぽんだ。

 いや、いいけど。
 後ろで藤が爆笑してるけど。
 常葉と柳の肩も揺れてるけど。
 透夜の腹筋もやばい。


「セオさま……! じぃじは、愚かでした──! なぜあんな輩の甘言に乗ってしまったのか──」

 涙ながらに訴えるじぃじが懐に手をやるのを、一瞬で透夜が弾いた。
 弾け飛んだのは、抜かれた短剣だ。


「……じぃ、じ……?」

 茫然と、セオがじぃじを見つめる。


「うぁ、あぁ、ァア、ぁあ──!」

 ガクガク痙攣したじぃじが、セオに向かって突撃しようとするのを、透夜の拳が止めた。

 ガァン──!

 こめかみを一撃で横殴りにされたじぃじが吹き飛んで昏倒する。
 その音とともに雪崩れ込む闇衣の男4人が剣を掲げた。

 ドォン──!

 常葉の回し蹴りで二人が昏倒、柳と藤がひとりずつ一撃で昏倒させた。

 一瞬だった。

 茫然と、セオは透夜たちを見あげる。


「……俺を……守って、くれ、た……?」

 誰を殺しに来たのか、暗殺されそうになることに慣れているセオは間違わなかったらしい。


「そういう依頼なんだ」

 脅迫状みたいな依頼書を掲げた透夜は、セオの頭をぽふぽふする。
 今度は誰にも邪魔されなかった。

 透夜を見あげるセオの瞳が揺れる。
 セオの肩を掴んだ透夜は、おごそかに告げる。

「とりあえず、腰に布巻こうか」

 後ろで藤が爆笑してる。



「わぁあぁあああ!」

 真っ赤になってばたばたしたセオは、あわてて食卓に置いてあったお皿を引っ掴んでお股を隠してた。

「それコントだから!」

 思わず突っ込んだ!
 後ろで藤が爆笑してる。
 柳がお腹を抱えてる。
 常葉がひーひー腹筋を押さえてる。
 透夜の腹筋もやばい。

 藤が宿の人にタオルと寝衣を借りてきてくれた。

「……あ、ありが、とぅ」

 ちゃんとお礼を言うセオに、藤の目元がやさしくなる。

「おお、礼が言えるんだな」

 わしゃわしゃセオの頭を撫でたら、セオは倒れたままのじぃじに目を落とした。

「……じぃじが……ちゃんと、お礼、しなさいって……」

 ぎゅっと唇を噛んだセオの声が、消えてゆく。

「そうか」

 わしゃわしゃわしゃわしゃセオの頭を撫でた透夜は、精霊さんに頼んでセオの頭を乾かしてもらった。

 ぶぉおおお~~

 透夜の掌からあふれる温風に

「おぉお! なんだこれ!」

 セオのぶどうの目が、きらきらしてる。



 髪を乾かして白い寝衣に身を包むと、口を開かなきゃ大国の立派な王太子に見えるセオが出来あがった。

「……じぃじは……」

 倒れたままのじぃじの息を確かめるように、セオが手を伸ばす。


「うちのバギォ帝国も大概だけど、エゥリケ王国も相当クソだな」

 吐き捨てた透夜は皆を振り返る。


「見たことあるのだよな?」

「ある」

 柳がこくりと頷いた。





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