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鍛錬?

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「さあってー、行くとしますかー」

 コキコキ肩を鳴らす透夜に、朝の光にきらめくひとつに束ねた長い髪を揺らした藤が帝都の中央を指した。

「馬車、出てるって。国境まで」

「え、遅いだろ」

 眉を下げる透夜に、常葉が仰け反った。

「走る気──!?」

 透夜は腕を組む。

「暗殺人形じゃなくなったのは、ものすごく喜ばしいことだし、あんなのはほんとにクソだけと、皆、鍛錬とかしてねーよな?」

 ぐ、と常葉と藤が詰まる。
 柳が、ふるふる首を振った。
 長めのほんのり緑の髪が、ふさふさ揺れる。

「柳、えらい!」

 わしゃわしゃ頭を撫でたら、柳のまなじりが、ほんのり赤くなって、こくりと頷く。

 かわいい。


「柳みたいにひとりで頑張れる子もいるけど、大抵はやっぱり、うまいごはん喰って、寝てていーよって言われると寝ちゃうんだよ、人間のさがだよ! そーするとぶよぶよして、暗殺の腕が下がって、いやそっちはいいけど、隠密の腕が下がると死活問題だろ! これじゃいかん!」

 拳を握る透夜に、渋々のように常葉と藤が頷いた。

「だからまあ、基礎体力を取り戻すためにも、走ってみよー!」

「いやいやいや、遠くない!?」

 半泣きな藤は、感情も生まれてきたし、突っ込みもばっちりだ。

「よかったな、藤。涙も突っ込みも完璧だ!」

 にこにこ笑って、藤の頭をぽふぽふ撫でた透夜は、拳を掲げる。

「走ってみよー!」

「うぇえええ」

 吐きそうな常葉と泣きそうな藤の隣で、柳の目がきらきらしてる。

「やなら馬車で来てもいーけどさー、国境まで行く馬車って、金かかるんじゃねえの? あるの?」

 突っ込んでみた!
 藤と常葉が青くなった。
 突っ込みが成功した透夜は、ふふんと胸を張る。

「よし、走るぞー!」

 駆けだす透夜に、柳が無言でついてくる。
 ほんのり赤いまなじりが、とってもうれしそうだ。よかった!

「ま、待って待って待って! そんな速いので国境までなんて絶対持たないから!」

「む、無理──!」

 後ろから駆けてくる藤と常葉が、泣いてる。




 さくっと帝都の端っこまでやってきました!

 全力で走ったら3分だけど、今日は長距離走る予定だから5分にしておいたよ。

 藤と常葉は涙目だったけど、ちょっとぜえぜえしてるけど余裕みたいだ。勿論柳も。よかった。
 胸を撫でおろす透夜の前には皆の行く手を強固に阻んだ、透明な壁がそびえ立つ。

 見えないけど、突っ込むとバチィ──! だ。かなり痛い。学習した!

 確かこの辺りに……

 コン

 伸ばした手が、硬い壁に触れる。

 コンコンゴン

 叩いてみたけど、やっぱり硬い。


「ほんとに発動すんのかな、これ」

 首を傾げた透夜は、手の中の魔道具を覗き込む。魔道具のうえに浮かびあがるのは魔紋だろうか、刻々と彩りと形を変えながら、ちらちら光を振りまいた。

「えーと、このボタンで起動する、らしい?」

 ちいさな突起を押してみる。
 魔道具からあふれた魔紋が、透夜を包んだ。

「おぉお!?」

 常葉と藤と柳が掌のうえに小さな魔道具を持っているのを確認した透夜は、透明な壁に触れてみる。

 みょ~~~~~~~ん

「な、なんか歪んだ! お、おぉ!?」

 手を入れてみた。


「と、通るぞ!」

 歓喜する透夜の周りの、道行く人たちが、ドン引いてる。




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