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帰る場所

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 ロロァの目を覗き込むように屈んだ透夜は、告げる。

「主と離れるのは、はらわたが千切れる思いですが、今回の任務は大変危険です。連れて行けません。紅蓮と皆の言うことをよく聞いて、必ず、待っていてください。追いかけてきてはいけません。いいですね?」

 ちっちゃなロロァの肩を両手で掴み、噛んで含めるように告げる。

 きゅっとちっちゃな拳を握ったロロァが、俯いた。
 ちいさな肩が、ふるえる。

「……ロロァさま……」

「…………僕が、弱ぃ、から……」

 掠れる涙声に、息を呑む。

「そんなことありません! わがきみは、天井から落ちてきた不審な暗殺者を回復してくださる、皆のために魔力を振り絞って結界を抜けようとしてくださる、素晴らしい勇気の、強い方です!」

 叫ぶ透夜に、ロロァの瞳がぐしゃりと歪む。


「……とーや……!」

 抱きつくちいさな身体を、抱きしめる。


「ロロァさまを抱っこしていても、暗殺者を百人屠れるくらい強くなりますから。そしたら、一緒に行きましょう」

 ぎゅっと透夜の胸にちいさな顔を埋めたロロァが首を振る。


「僕が、とーやの隣に並べるくらい、強くなる!」

 むんとちっちゃな拳を握る主が、天使です。


「じゃあ今回はお留守番です、いいですね?」

 膝をついて視線を合わせる透夜の手を、ちっちゃなロロァの指が握る。


「うんって言って、追いかけるのはなしです。いいですね?」

 ちゃんと約束しないと!

 今回は常葉を連れてゆく!
 常葉を置いてゆくと、たぶん1000000%の確率でロロァが追いかけてきてくれるからな!
 いくら俺でも学習したよ!

 ちら見した常葉は、煮え具合でも突然確認したくなったのか、お鍋を覗き込んで口笛を吹いてた。


「……トコハ……」

 うるうるの藍の瞳で見あげるロロァに

「ぐ──!」

 胸を押さえた常葉が、透夜を見あげる。
 そのうるうるの瞳2重奏攻撃は大変に強力なのですが……!

「だめだから」

 キリっとしたつもりが、うるうるのふたりの目に、ちょっとふにゃっとした。

 …………弱い。

 それでも断腸の思いで首を振る透夜に、常葉もロロァも項垂れた。


「……ごめん、ロロァ」

 しょんぼりな常葉に、ロロァはふるふる首を振る。

「あ、あの……今まで、わがまま、ごめんなさい。トコハ、何も悪くないの。僕が頼んだ、から」

 俯くロロァのちいさな顔を覗き込む。


「今度はちゃんとお留守番してくれますね? 紅蓮たちと一緒に」

 やさしい声で、確かめた。

「……はい」

 ちいさな声で頷くロロァのちっちゃなまるい頭をなでなでする。


「あるじは、とってもいい子です。透夜は元気に帰ってきますから、笑って迎えてくださいね」


 帰る場所は、いつだって、あなたの傍がいい。


「はい!」

 真っ赤なほっぺで頷いてくれるロロァが、天使だ。



「無事で帰ってくるんだぞ!」

 ユィルが頭をなでてくれる。
 やさしい。


「けがしたら、ゆるさないんだから!」

 ぷいと横を向くキァナが、かわいい。


「いってらっしゃい、とーや!」

 主が、孤児の皆が手を振ってくれる。



 帰ってきたい場所を見つけたしあわせを、噛み締めた。





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