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……補導?

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「違うから! 俺はちゃんと主だけだから!」

 涙目で訴える透夜の腕のなかのロロァが、もぞもぞする。


「……ふにゃ……とーや……」

 ぎゅう

 ちっちゃな手で抱きついてくるロロァが、天使だ。


 バハの目もやさしくなったが、透夜に向けられる目がよりサイテー男を見る目になった!

「違うから!」

「わかったわかった。で、どうだったよ、汚れ仕事は」

 絶対解ってないだろう、チョビ髭を撫でながらにやにやするバハに、透夜は吐息する。

「成功したけど、俺、やっぱやだ。キァナのぱんつの色は、俺の胸に仕舞っておくことにする!」

 真っ赤になったバハが、ばたばた辺りを見回した。

「いやいやいや、デカい声で言うな!」

「誰もいないだろ」

「いなくてもだ! 汚れ仕事なんだぞ! 帝都警護団に聞かれたらお終いだ!」

「ほほう、何がお終いだって?」

 ガシャジカシャ金属の鎧の音を鳴らして扉を開けたのは、いかにもゴツくデカい衛士だった。

 兜を脱ぐと鷹色の短い髪が、夜風に流れる。
 見回りで日に焼けたのだろう褐色の肌にとてもよく似合う鷹の目がバハを射た。


「ぎぇえ! ザァグ警護団長! こんな真夜中に支部長はいやせんぜ!」

「わーかってる。見回りだよ、見回り。ちっちゃいガキが見えたから、夜中に遊ぶんじゃねえよって注意しに寄ったんだ。冒険者同盟が子どもを強制労働させてるなら由々しき事態だしな」

 鷹の目を鋭く細めたザァグに、バハが跳びあがる。

「そんな滅相もない! 子どもだって働かなきゃ、餓えて死ぬんです。子どもでもできる仕事を紹介してるんですから、褒章を貰ってもいいくらいでさあ!」

 確かにそのとおりなのだが、公爵子息のぱんつの色を調査する依頼を受理しちゃたのはどうなんだろうか。

 思わず首を傾げてしまった透夜に、ザァグの鋭い目が落ちた。

「……ほう。子どもと侮って悪かったな」

 見ただけで強さが解るというのは、相手も相当強いということだ。
 まあ、見た目からかなり厳ついし、警護団長なんだから強くて当たり前か。

 笑った透夜は、巨漢を見あげる。

「こんばんは。警護団長の権限を逸脱するかもしれないんですが、公爵令息を、親の公爵が暗殺しようとした場合、親は罪に問われますか」

 ロロァの場合は両親は虐待を続けていたが、悪評を真に受けて暗殺を計画したのは帝家だ。帝家に訴えようと揉み消されることは間違いない。
 だがキァナには、両親の明確な暗殺示唆の証拠がある。

 できるなら、断罪を。

 望む透夜に、目を剥いたザァグが絶句する。

「──な!?」

「……やっぱり無罪ですか」

 肩を落とす透夜に、ザァグは慌てたように首を振った。

「い、いや、その、我らの裁く範囲ではないのだが、おそらく帝国議会に掛ければそれなりの処罰が下ると思われる」

「なるほど、帝国議会に掛けるには、上位貴族の同意が幾つも必要とか、そういう話ですか」

「……だな」

 ザァグは項垂れた。

「……力になってやれず、すまない」

「いえ! こちらこそ初対面で挨拶もせず、重い話を申し訳ない。『よい子の隠密団』の透夜です」

 丁寧に頭をさげた透夜に


「きみか──!」

 鷹の瞳が、まるくなった。



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