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よい子だよ

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 わしゃわしゃ頭をなでなでして、赤い頬でロロァとキァナが笑ってくれたら、撤退だ。

「よし、じゃあ家に帰ろう! ロロァさまは抱っこ、キァナはおんぶな。常葉、援護を頼む」

 拳を掲げる透夜に、生温かい目の修練みたいになってた常葉が、生温かいまま頷いてくれる。

「トゥヤ、もてるねえ」

「いやこれは、モテじゃない」

 申告した!

「あれだよ、保父さん的な何かだな」

 残念ながら、うむうむした。

「よし、俺が皆の父ちゃんになろう!」

 胸を叩いてみた!
 12歳で父ちゃんか、我ながらスパダリだ!

「ちょっとちがう」

 ロロァがふるふる首を振る。

「ちがうね」

 キァナも同意した。

「だいぶ違うよ」

 常葉まで裏切った!

 ちょっと涙目になった透夜の頭を、ちっちゃな手がなでなでしてくれる。

「えへへ。なかなぃの、とーや」

 赤い頬で笑ってくれるロロァが、天使だ。





 帝都の外れの家にキァナを連れて戻ると、夜遅いのに、頑張って起きて待っていてくれた皆が「おかえり」笑ってくれた。

「やあ、はじめまして、ユィルだ」

 氷の髪に氷の瞳、ミィによく似たかんばせに、キァナが目を瞠る。

「も、もしかして、大変優秀だと音に聞くユィル殿下、ですか──!」

 仰け反るキァナに、ユィルは微笑んで首を振った。

「彼は死んだよ」

 傷ましそうに眉を顰めたキァナは、顔をあげる。

「キァナ・ゾンデは死にました。僕はキァナです」

 告げたキァナに、微かに目を見開いたユィルが、ちいさな手を差しだした。

「よろしく」

「よろしくお願いします!」

 握手を交わしたふたりが笑う。
 ロロァが思い出したように声をあげた。

「あ、遅くなったけど、僕、ロロァだよ。えと、ロロァ・ギビェは死んだの」

 キァナが目を瞠る。

「ギビェ……!?」

「死んだの」

「……そうか」

 伸びたキァナの腕が、ガリガリのロロァを抱きしめた。


「僕はトコハだよ」
「俺はグレン」
「俺、ソラ! よろしくな!」

 次々に自己紹介してゆく皆に、キァナの目がまるくなる。

「こ、こんなに、たくさん?」

「元、暗殺人形だ。今は『よい子の隠密団』!」

 透夜の言葉にあんぐり口を開けたキァナが、皆を見つめる。

「……よい子の……」

「よい子だよ!」

 ちっちゃな胸を張るロロァが、天使だ。





「じゃあ俺は、ちょっくら冒険者同盟に報告に行ってくるから!」

 スパダリっぽく見えるよう、透夜は颯爽と手を挙げる。

「つ、ついてく!」

 ロロァがしがみついてくるのに、にひゃりと笑み崩れた透夜が、ちいさな背中をぽふぽふする。

「わがきみは、もう、おねむでしょう?」

「う、ぅん、でも……とーや、うわき、する、かりゃ……」

 人聞きがわるい!

「うわー」

「紅蓮、その目は止めてくれ! 生温かい目でお願いします!」

「……あー」

「ユィルもその、ゴミを見る目を止めてぇえ!」

「まあまあ、トゥヤ、皆の父ちゃんになってくれるみたいだよ」

 常葉のやさしい援護が来た!

「違うな」

 紅蓮に両断された。

「違うね」

 ユィルに全否定された。

「うーん、父ちゃんって言うより、兄ちゃん?」

 若返った! ありがとう、空!


「透夜は、透夜だよ」

 笑ったユィルが背伸びして、ちっちゃな手で涙目な透夜の頭を撫でてくれた。





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