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汚れちゃう
しおりを挟むもし大昔の結界が生きているなら、昔の伝説並みに、孤児の皆とロロァとユィルが強いってことだよな?
それほど強くはないと思う。
たぶん。
皆、ちっちゃいし。
こども団だし。
首を捻った透夜は、ふたたび身を乗り出した。
「結界の破り方、解る?」
「帝宮の地下に、結界発動魔道具があるって噂だ。壊すしかねえんじゃねえか?」
ボホはユィルと同じ意見だ。
やはりここはロロァの成長にかけるしかない。
「そーだ、魔力を高める、魔法使いの先生とか紹介してくれないかな?」
ロロァと一緒に勉強したい!
「その前に金返せ」
ボホにすごまれて、ちいさくなった。
「……ごめんなさい」
「で、ちっとした裏の仕事なんだがな──」
身を乗り出すボホの顔が近い。
透夜は、夜の帝都を駆けている。
ボホから依頼されたのは、ちょっとした裏仕事だ。
めちゃくちゃ、めちゃくちゃ、やりたくない。
こんなの絶対、絶対スパダリじゃない。
しかし冒険者同盟にある依頼のなかで、一番実入りのいい仕事だという。
かなりな額だった前金がさくっと稼げて、おまけに魔法使いの先生まで紹介してくれるという。
──やるしかない。
非常に、非常に無念だが、人生には時に汚れ仕事が必要だ。
……たぶん。
いや、ないほうがいいけど。
絶対、ないほうがいいけど。
だって、犬探しとか1000件やっても終わらないよ!
1000匹もの犬が迷子になるか!?
無理だ──!
という訳で、泣く泣く透夜は夜の帝都の屋根を駆けている。
「……俺も行くよ」
悲壮な顔で言ってくれた紅蓮の肩に手を置いた。
「汚れるのは、俺だけで充分だ」
髪を掻きあげて目を伏せてみたけど、こんなの絶対すぱだりじゃねえ──!
『ユィルとロロァさまには言わないでくれ』言えなかった。
嘘はつかないと決めたんだ。
皆が生きていくために、借金地獄で泣かないために、俺はやる──!
むんと気合を入れた透夜は、帝宮に近い広大な敷地を有する邸宅に降り立った。
バギォ帝国の貴族の一般的な邸宅の構造は似通っている。
初めて来る屋敷でも、何がどこにあるのか、人の動きや警備の衛士の気配を察知すれば、手に取るように理解できる。
「……よし、やるぞ」
ひらりと屋根に舞い降りた透夜は、するりと屋根裏に忍び込む。
ズボォ──! とならないように、足場を確かめる癖がついた。
もうあんな無様はごめんだ。
ロロァが隣にいてくれないと、今度こそ死んじゃう。
慎重に足を運んだ透夜は、夜の寝室に降り立った。
机のうえには希少な書物や書類が並べられ、まだ乾いていないインクが射し込む月の光にきらめいた。
長い水の髪が、さらさら夜風に揺れる。
月影を映す水の瞳が、眠たげに瞬いた。
銀縁眼鏡を外した指が、止まる。
「ひゅ──!」
公爵家長子キァナ・ゾンデが息を呑む音が聞こえた。
衛士を呼ぼうと伸ばされた指より先に、鈴を奪い取る。
音が鳴らぬよう手のひらのなかに握り込んだ透夜は、口元を覆う闇衣を少し下げた。
「驚かせてごめん。危害を加える気はないんだ。ただ、ちょっと、質問が」
覚悟を決めた透夜は、息を吸う。
「ぱんつの色、教えて」
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