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いじめたらだめなのです
しおりを挟む拳を掲げる透夜の頭を、ぬうっと出てきたぴかぴか頭のおじちゃんが、ぽんぽんした。
人払いがされたのだろう、掲示板を見ていた冒険者たちがいなくなっている。
落ちた静寂を、低い声が破った。
「なあ、ぼっちゃん。うちとしてはこんなことしたくねえんだが、ほら、ついうっかり口が滑って、ギビェ家に確かじゃない情報を漏らしちまう、なぁんてことがあったら、いけねえだろう?」
「ぐ──!」
うわあん!
スパダリどころか、俺の失言のせいで、窮地に──!
「とーや、いじめないで──!」
ちっちゃな身体が駆けてきて、でっかいおじちゃんと透夜との間にたって、ふるえる腕を広げてくれる。
「トゥヤ、ごめん、止めたんだけど、どうしても行くって──」
駆け寄る常葉の言葉と、守ってくれるロロァの背に、透夜の視界が潤んでく。
「……わがきみ、俺は、大変な失態を──」
振り返ったロロァのちっちゃな手が、透夜の頭をやさしく撫でた。
「だいじょーぶ。僕が、そばにいる」
ちっちゃな腕が、抱きしめてくれる。
「とーや」
名を呼んで、笑ってくれる。
ああ、だから
「わがきみ」
膝をつき、こうべを垂れる。
ロロァのちっちゃな手が、頭をなでてくれる。
それだけで、あなたのために、何だってできる気がするんだ。
「わ、私もいるぞ!」
柳と一緒にぽてぽて駆けてきたユィルのちっちゃな手も、透夜の頭を撫でてくれた。
「……ありがとう、ユィル」
「う、うん!」
真っ赤になって、笑ってくれる。
「俺たちもいるからな」
紅蓮が、常葉が、空が、柳が、皆が笑ってくれる。
「ありがとう」
微笑んだ透夜はひとつ、息を吸った。
目を、変える。
空気が、変わる。
「人を脅すからには、潰される覚悟があるんだろうな?」
声が、地を這った。
透夜と仲良しの精霊さんたちが、臨戦態勢になる。
それを察知した仲間の皆が、静かに獲物を構えた。
「一瞬で、皆殺しにできるぜ」
剣を抜いた透夜が、ロロァとユィルを背に庇う。
すぐに察知した常葉と柳が、ふたりを守るように動いた。
流れるような所作に、迷いも、躊躇いも、微塵もない。
決められた当たり前の業務をいつもどおりこなすように、剣を構える皆の瞳が、凍てついた。
ずっと、皆と一緒に、くだらない指令をこなしてきた。
ユィルに向かってくる暗殺者たちと、闘ってきた。
記憶は、ないけれど。
身体は、憶えてる。
皆が、どこにいるか、皆が、どう動くか、手に取るように解る。
感情も、記憶もない皆と一緒に連携してきたんだ。
言葉さえ、なかった。
気配だけで、意思疎通できる。
それが、暗殺人形だ。
睨みつける目が、細くなる。
研ぎ澄ませた殺気に応えるように、雫をまとうような刃が、きらめいた。
透夜がひとつ、息を吸う。
それが、合図だ。
一瞬の狂いもなく、皆で同時に踏み込むひと息前に、ぴかぴか頭のおじちゃんは、両手を挙げた。
「……これほどとは、思わなかった」
震える声だった。
ぴかぴか頭を、冷たいのだろう汗が伝い落ちてゆく。
「すまなかった」
汗でびしょ濡れになった頭を、下げた。
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