上 下
12 / 102

しあわせ家族計画

しおりを挟む



 透夜は、ふふんと胸を張る。

「はい、形勢逆転。ユィル殿下は確か、近衛も騎士も使えなかったような気が」

 ほとんど砕けてる記憶だけど、たぶん!

「俺はさっき、殿下の魔法を叩き潰した。無詠唱魔法なら、俺のほうが上です。まだやりますか?」

 ぐ、と唇を噛んだユィルは、項垂れた。

「……よくもやってくれたな。私から傀儡を奪うのは、私に『死ね』ということだ」

 物騒な言葉に、透夜は息を呑む。

「そうでしたっけ?」

 あんぐり口を開けたユィルが吐息する。

「何を今更と思ったが……そうか、49番、きみの記憶は壊されているんだね」

 首を傾げた透夜は、頷いた。

 49番として生きた記憶は、ぼんやりとしかない。
 霞が掛かったかのように、思い出せない。
 叩き込まれた隠密だの監視だの偵察だの暗殺だのの身体記憶ばかりが鮮明だった。

 そうするために、記憶を壊すのだろう。
 指令に一切の疑問を抱かず、着実に遂行するように。

「ほんとうは帝太子は私なんだ。血統のうえからも、年齢でも、能力でも。でも私は弟王子が帝太子だった兄を孕ませて生まれた禁忌の子、可愛がってくれたのは両親だけだ。バギォ帝の汚点として毎日暗殺部隊がやってくる」

 ユィルは顔をあげる。

「止めてくれたのは、暗殺人形の皆だ。49番、きみもね」

 なんかいっぱい来ると思ってた!

 そうか、ここはBLゲームの世界だから、ふつーに魔法で子どもができるらしい。
 魔力を腹に籠めて孕ませて、産むときは帝王切開みたいだ。

 と、いうことは、俺とロロァの子どもも……!

 きゃ──!

 両手を両頬にあててもだもだする透夜に、ユィルの目が遠くなる。

「今、私は、切なくて辛い話をしたように思うんだけど……」

「申し訳ありません、殿下。ちょっと将来の夢が」

 しあわせ家族計画が!

「暗殺人形の皆がいなくなったら、私はほどなく殺されるだろう」

 予言のように呟いたユィルが、目を伏せる。

 透夜はちょっと、考えた。

 帝家の血の凝縮ユィル殿下は、本来なら帝位継承権第一位であるはずなのにBLゲームには一切出て来なかった。
 隠しキャラでもない。
 フルコンプした。スチルも全部集めた。100%だった、間違いない。

 だって、BLゲームマスターだから!


『どき☆ワク☆イケメンパラダイス♡』は主人公が16歳のときの魔力覚醒から始まるので、ロロァが5歳なことを考えると今から11年後の話だ。

 ということは、おそらくユィル殿下は、暗殺人形に守って貰っていても、力及ばず暗殺されてしまったのだろう。

 暗殺人形たちも、一緒に。

 帝家の暗部をすべて、皆殺しにしたのかもしれない。

 クリーンな帝家を、主人公にアピールするために。


『どき☆ワク☆イケメンパラダイス♡』は、そういう世界だ。
 ベタなタイトル通り王道の展開を遂行するため、無茶が通る。


『悪役』烙印を押された者は、問答無用で悲惨な最期を迎える。

『楽しいざまぁ』のために。


 プレイしている人たちには、とても楽しいお約束展開なのだと思う。

 でも


「悪役にとったらクソゲーだよな」


 ふんと透夜は鼻を鳴らした。






しおりを挟む
感想 110

あなたにおすすめの小説

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼第2章2025年1月18日より投稿予定 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

処理中です...