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わがきみ
しおりを挟む「……あ、あのあの、で、でも僕、な、何にもしてあげられない、けど……」
すんすん鼻を啜って、しょぼんと肩を落とすロロァに、透夜は笑った。
「きみをたすけ、きみを生かす。BLケームマスターとしての使命を全うする!」
自称した!
「げ、げーむ?」
「あぁ、うん、たまに変なことを口走るが、気にしないでくれ。ちょっとした前世の記憶だ」
にこりと笑った透夜は、ゲームやアニメや映画で見たみたいに、颯爽とロロァの前に膝をつく。
「我が忠誠を、きみに」
ちいさな手をとり、その指に額を押しあてた。
耳まで真っ赤になったロロァが
「はわわわわ!」
ぷるぷるしてる。
かわいー。
天使だ。
「俺をあなたの従者にしてくれますか?」
微笑んだら、ロロァのちっちゃな指が、透夜の手を握った。
「……ぼ、僕の、傍に、いて、くれ、る……の……?」
「この命、尽きるまで」
唇から零れた言葉に、透夜が一番びっくりした。
ロロァを見ていたら、自然と口にしてた。
このちいさな幼子こそが、我が主だと。
仕えるのは王族でも他の誰でもなく、ロロァなのだと。
まるで当たり前のことのように、唇が紡ぐ。
「わがきみ」
……あぁ、そうだ。
ロロァが救ってくれなければ、死んでいた。
ならこの命は、きみのために。
胸に手をあて、こうべを垂れる透夜に、ロロァの藍の瞳が、まるくなる。
ちいさな指が、透夜の手を、ぎゅっと握った。
「……僕の、傍に、いて、くださぃ……とーや」
幼い高い声が、名を呼んでくれる。
「はい、わがきみ」
前世でもしたことのないような、とろけた顔で、笑った気がした。
ててれってってってー!
悪役令息の従者に、転職した!
ふふん、我ながら素晴らしい転職だ。
自画自賛する透夜がロロァの従者になって一番にしたいのは、主を風呂に入れることだ。
「とりあえず、風呂に入りましょう、わがきみ」
きょとんとしたロロァが、ぷるぷる首を振る。
「おふろ、ない」
腐り果ててるうえに、風呂までないとかふざけるのも大概にしろ!
ぷりぷりした透夜は、隙間風びゅーびゅーの邸内を探索、埃に塗れて物置と化している風呂を発見した。
「ありました、わがきみ。ちょっと掃除するので、お待ちください」
「だ、だめ、傷まだ、塞がったところ、だから!」
「内臓ぶちまけながら走ったことあるので、へーきです」
親指を立ててみた。
ちっちゃな主の顔が、真っ青になった。
「ま、また傷開く、から、だめ──!」
きゅう、と抱きついてくれるロロァが、髪がべったりでも、めちゃくちゃ天使だ。
ずっと一緒にいるおかげで、鼻も麻痺していてくちゃくない。ありがたい。
しかし、主がお風呂にずっと入れなくてくちゃいというのは、従者としてだめだろう!
「うーん、じゃあ傷が開いたら治癒魔法かけてください」
「だ、だめ!」
ぷるぷるロロァが首を振る。
「そんなに従者を大切にしてくれなくていいんですよ?」
「とーや、大事なの!」
真っ赤な頬で、うるうるの目で、見あげてくれる。
こんな天使が悪役令息とか、このゲームどうなってんだ、ごるァアア──!
絶叫したい気持ちを押しこめた。
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