きみの騎士

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きみの騎士

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「ルフィスは、俺の光だった」

 目を見開いたルフィスの頬が、紅くなる。

「あ、ああ、ああり、がと、う。
 ……でも僕、何にもできない子供だったよ。
 駆けっこも遅いし、どれが木の実かもわからないし。
 こんなじゃリイ、つまんないだろうな、僕、情けないなって思ってた」

 なつかしい記憶に、リイはやわらかに目を細める。

「俺と手をつないでくれたのは、ルフィスだけだった。
 俺と一緒に饅頭を作ってくれて、笑ってくれた。
 お伽噺のなかにいるみたいだった。
 灰の世界に光を燈してくれたのは、ルフィスだ」

 熱い頬で、ルフィスの手をにぎる。

 ルフィスの手が、ぎゅうぎゅう、握り返してくれる。

「僕と手をつないでくれたのは、リイだけだった。
 死すべき人形のように扱われてた僕に、野山を駆けることを教えてくれた。
 ……リイが笑ってくれるたび、涙が出た。
 僕と、手をつないでくれる人がいる。
 僕を、思ってくれる人がいる。
 …………夢のなかにいるみたいだった」

 蒼碧の瞳が、滲む。


「歯を食い縛って生きるけど、僕の力が及ばなくて殺されても、リイに逢えたから、もういい。
 リイが、僕の運命だ。
 ずっと、そう思ってた」


 燃える頬を、ルフィスの両のてのひらが、つつむ。


「至光騎士戦で、リイを見た時に思ったんだ。
 リイが来てくれるのを、ずっと待ってた。
 リイこそが、僕の騎士だって」

 紅い頬で、ルフィスが笑う。

「一目惚れの幻想なのかなって思ってた。
 でもきっと、レミリアの中のルフィスは解ったんだ。
 ずっと待ってたリイが、来てくれたって。
 ずっと、リイを信じてた。
 リイだけが、僕の騎士だって」

 見開いた目に、涙がにじむ。

「僕が捜しに行けなくて、ごめんなさい。
 初めて逢ったときも、レミリアとして逢ったときも、リイが女性だとわかったときも。ずっと。
 リイだけを、想ってた」


 琥珀のように輝く、ルフィスの記憶も

 切なく光るレミリアの記憶も、抱きしめて


 きみが、抱きしめてくれる。


「僕の騎士だ」


 涙のあふれる腕で

 きみを、抱きしめる。


「きみの騎士だ」


 ルフィスの腕が、背を抱いてくれた。


 ルフィスのぬくもりに包まれて、ルフィスの鼓動に耳を寄せる。
 春が始まる風が、リイの長い髪を舞いあげる。

 リイはルフィスの瞳を見つめ、ルフィスの頬を荒れた指で包んだ。
 開かれゆく唇が、言の葉をつづる。


「俺以外を騎士に選んだら、殺すから。
 俺を解雇したくなったら、俺より強くなってね」

 笑顔と裏腹な凍てつく瞳で、リイが告げる。
 目を瞠ったルフィスは、吹きだして笑った。

 ………………冗談だと思ったよね。
 それでいい。

 ルフィスに捨てられたら命が終わるくらい、リイにはルフィスだけだから。
 ルフィスのことだけを想って、生きてきたから。

 ルフィスのことだけを想って、生きてゆきたいから。

 そんなこと自分だけが解っていたらいい。

 滲む涙を隠そうとしたリイの頬が、ルフィスのてのひらに包まれる。


「僕の生涯をかけて、僕の想いを、リイに伝えてあげる。
 もし何かの誤解で、リイが僕を殺したくなっても、大丈夫!
 僕は、リイより強いから。
 安心して、僕をすきになってね!」


 あふれる涙を、抱きしめてくれた。





 ルフィスの腕のなかで、ルフィスの鼓動を聞いていた。

 レミリアの香りとほんのすこし違うルフィスの香りに包まれたリイは、目を閉じる。


 夢みたいだと思う。

 夢じゃ、いやだと思う。


 きみのそばで

 きみを、守りたい。



 今度こそ、叶うかな。



「…………ルフィス」


 きみの名を呼ぶだけで、涙がこぼれる。

 きみとつながる指に、思いがあふれる。


 とろけそうにやわらかなくちびるが、くちびるにふれる。



「女でも男でも、ずっと、きみだけだ」


 ささやきが、耳朶にふれた。


 頬が、燃える。

 鼓動が、こわれる。


 それでもきみの、そばにいたい。




 つながる指に、すがった時だった。


 ぽん!

 可愛らしい弾ける音とともに、白金の光芒があふれゆく。


「…………え…………?」


 ………………ルフィス、ちいさくなった?

 とろけそうにやわらかな肌、春風にゆれる金の髪、吸いこまれそうな星の海の瞳は────


「…………レミリア、さま…………?」

「えぇえエェゑ──!」

 仰け反るルフィスが泣きだしそうで、愕然と見開いた目を戻したリイは、笑った。

 腕のなかにおさまる、なつかしいレミリアの身体を抱きしめる。


 この手で、きみを、抱きしめる。



「女でも男でも、変わらない。
 きみだけを想う。
 きみの騎士だ」






 
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みんなの感想(4件)

いまだき かんき

ここで完結…………?本当に?

これ、絶対王太子の仕業ですよね?
お前の覚悟を見せてみろ、と言わんばかりで、実際は、リィへの手出しは認めん、と言う横取り宣言でしょうか?

まあ、砂糖を吐きたくなかっただけと思うことにします。

完結、ありがとうございます。お疲れ様でした。最後まで読めて、作者様らしいナイスな結末に喜んでいます。
改めて、完結おめでとうございます。

  *  
2023.05.18   *  

いまだき様、完結まで読んでくださって、ご感想まで、ほんとうにほんとうにありがとうございます!

ここで本当に完結ですー!(笑)
リイが最初からルフィスを想って頑張っているのを知っている、ルフィスのしあわせを誰より願うレイティアルトですから、きっと涙を呑むのではないかと!(笑)

20万字を超えると思っていなかったので、随分長くなってしまったのですが、読んでくださったこと、ご感想を伝えてくださったことに、感謝の気持ちでいっぱいです。
一話書くごとに、楽しんでくださるかな? と、どきどきしていたので、いまだき様のご感想は本当に励みになりました。心からありがとうございます。

ナイスな結末のお言葉、大変うれしいです!
感無量のお言葉は、泣いてしまうくらいうれしかったです。
ほんとうにほんとうに、ありがとうございました!

解除
いまだき かんき

ああ、やっと剣は主の元に還れたか…………
感無量です。

さあ、後は…………男に戻った反動を理由にして、漢となって……最初に望んだ様に孕ませるだけだ!

頑張れルフィス、きみだけの騎士は、溺愛されるのを隣で待っている!……?か?

  *  
2023.05.05   *  

いまだき様、ずっと読んでくださってご感想まで、ほんとうにありがとうございます!
私のほうが感無量です、ありがとうございます。

反動かなりありそうですよね!(笑)
ルフィスはめちゃくちゃ溺愛するタイプなので、リイはしあわせに溺れると思います(笑)

ずっと読んでくださって、心からありがとうございます。
あとちょっとで完結ですー!

解除
いまだき かんき

昔とあるコンビニに

<きみのプリン>と言うプリンがありました。
卵の黄身のみで作ったプリン、の意味です。

今は名を変えて

<きみだけのプリン>です。

彼女の満願が無事成就し、《きみだけの騎士》 になるのは、いったい何時の日なのだろうか?



お問い合わせの人物…………実は身近にいる?
誰が誰を……か?
そして気が付けば目の前で、溺愛のド壺に嵌まった王太子の毒牙に…………は無いか…………

  *  
2023.03.29   *  

読んでくださって、ご感想、とてもうれしいです! ありがとうございます。

きみのプリン……!
とても素敵な命名ですね。とても美味しそうです。

でも『きみだけのプリン』の方が更にグレードアップして美味しそうな……!(笑)

いまだき様には、これからの展開もまるっとお解りなのかもしれませんが(笑)少しでも楽しんで戴けるお話を書けるように頑張ります。

毒牙、ちょっと掛かって欲しい気もします……!(笑)

いつも本当にありがとうございます!

解除
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