きみの騎士

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きみの傍

レイサリアの血

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 3人で行う執務は、2人でするよりずっと速い。

 ルフィスの優秀さを目の当たりにしたリイは、目を瞠る。

「レイティアルトと同じくらいだなんて、凄まじいな」

 驚嘆するリイに、ルフィスのちいさな顔が近づいた。

「惚れ直した?」

 跳びあがったリイは、視線をさまよわせ、燃える頬で頷いた。

「だから、よそでやれ!」

 怒るレイティアルトの指が、報告書を弾く。


「貴族の不審な動きはどうなった?
 ルフィスが敵国の隠し子だと嘘を流したのは俺だが、機密院のクグからギゼノスが噛んでいると報告があがってる。証拠は出たのか」

 眉を寄せるレイティアルトに、ルフィスは吐息した。

「……風に揺れる花のようなラトゥナは、荒れ狂う嵐に立ち向かう大樹のような母なんだね。
 ルフィスの存在を明らかにすることで兄さまを失脚させ、僕を殺し、ロエナの光国を築くには味方がいる。
 兄さまは人望、半端ないからね。貴族が猛反対するのは目に見えてる。
 だから不正を行っている貴族を調べあげ、ひそかに情報を流し、兄さまに次々断罪させた。
 断罪された貴族は兄さまを恨みに思ってる。必ずロエナの味方につく。
 そうして少しずつ地盤を固めてたんだ。
 兄さまが撒いた、ルフィスがギゼノスの隠し子だって嘘を利用され、ギゼノスが絡んだ偽の証拠まで掴まされた」

 言葉を切ったルフィスは、目を伏せた。

「黒幕を読めなかった僕が、浅はかだった。
 ラトゥナもロエナも権力欲からほど遠いと思って油断して、兄さまを危険に曝した。ごめんなさい」

 深く頭をさげたルフィスの肩にレイティアルトが手をふれる前に、ルフィスは
顔をあげた。

「でもそれは兄さまが嘘を流したりしたから、ルフィスを血眼で捜してた僕が慌てて混乱したの!
 その上、兄さまの嘘を利用したラトゥナに、リイが騙されたんだからね!」

 レイティアルトが唇を開く前に、ルフィスはレイティアルトの手をにぎる。

「ずっと僕を守ろうとしてくれて、ありがとう」

 口を挟む暇のないレイティアルトが喉の奥で笑って、弟の手を握りしめた。


「母の思いは、レイサリアの血を超えるな」

「セリスも助けてくれて、ありがとう」

 弟の言葉に、レイティアルトはやわらかに微笑んだ。

「当たり前だ」

 レイティアルトの手が、ルフィスの頬を包む。
 兄のてのひらに頬を寄せたルフィスは、手を掲げた。

 手首には、ほのかな銀にきらめく青い静脈が走っている。


「この身には、レイサリアの血が流れてる。
 恐ろしいと思ったことは、ない。
 僕を、リイを守ってくれた力だ。
 強き力そのものは、透明だ。
 その力を使う者の闇こそが、惨劇を生む」

 蒼と碧にきらめく瞳が、レイティアルトを、リイを見つめる。

「僕の心に闇が降りるときも、兄さまが、リイがいてくれたら、僕は決して呑み込まれたりしない」

 兄の手を両の手で包んだルフィスは、微笑んだ。

「僕もセリスも、決して反逆したりしない。
 安心しててね、兄さま」

 ルフィスの髪をくしゃくしゃにしたレイティアルトが笑う。

「王になりたいなら、代わるぞ」

 目を剥いたルフィスはぶんぶん首を振った。

「毎日毎日、東雲から夜闌まで執務に追われたくないし、ゲルク王女に迫られたくない!」

 叫ぶルフィスに、レイティアルトが引き攣って、リイは吹き出して笑った。 






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