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きみの傍
ありがとう
しおりを挟むリイは、目を瞠る。
「ルフィスを、守ってくれていたのですか……!」
ザインは王太子執務室を見あげる。
「レイサリアの闇騎士は、決して表に姿を現さぬ。
……光騎士団長であり、闇騎士団長の弟でもある俺にさえ知らされぬくらいだからな。
王帝陛下のみが勅命を下せる、レイサリアの暗部を背負う騎士団だ。
レイティアルト様は齢8歳にして王帝陛下を凌駕し、闇騎士さえも掌握した。
ひとえに、ルフィス様を救うために」
リイの瞳が、揺れる。
「……ザイン殿のお兄さまとレイティアルトさまに、心からの感謝を」
「伝えよう。
光都で記憶を持っていたのは、兄とレイティアルト様だけだ。
あまりにリイがルフィス様を捜しているので、兄にも聞いてみたんだ。
兄は笑っていたよ。『もうすぐ解る』と。
だが俺にも決して口を割ることはなかった」
ザインの鋼の瞳が、リイを見つめる。
「……キールを、ラトゥナ陛下を、よく止めてくれた」
分厚い掌が、リイの髪をくしゃくしゃ撫でた。
「レイティアルト様が光王となられた暁には、兄に逢う機会もあるかもしれぬ。
闇ばかりを背負わされてきた闇騎士団を、レイティアルト様は解体すると仰っていた。
隠さねばならぬものなど、何もないとな」
微笑むザインに、こうべを垂れる。
「……あの時、ザイン殿のお兄さまが止めてくださらなければ、俺は闇騎士を殺していました。
──……友を斬った今、その重みが、痛みが、ようやく解る。
お兄さまのおかげで、俺は救われたんです」
滲む涙を拭ったリイは、顔をあげる。
「ふたたびお逢いできる日を、楽しみにしています」
涙目のリイに、ザインは胸を押さえた。
「…………ぐ…………!」
「酷いよ、リイ!
僕という者がありながら、レイティアルト様とレミリア様と二股だなんて!
ザイン殿まで落とす気なの!?」
「あ、あの、コルタ、糾弾の意味がちょっと解らないんだけど……」
首を傾げるリイの隣で、ザインが涙目だ。
「なぜこんなに攻撃力が上がっているんだ──!」
真っ赤なザインがわたわたして、光騎士たちがお腹を抱えて笑った。
「無事でよかった!」
「ほんとに手間のかかる末っ子だよ!」
血まみれのリイとコルタを、涙目の皆が、ごつごつの腕で抱きしめてくれる。
みりみりする背骨で、皆の背を抱きしめて、笑った。
「……光騎士になれて、よかった。
皆の仲間になれて、よかった」
ひとりひとりの涙の滲む瞳を見つめて、頭をさげる。
「心配させて、ごめんなさい。
心配してくれて、ありがとう……!」
涙のリイを、コルタの、ザインの、仲間の腕が抱きしめた。
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