きみの騎士

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望み

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「残りの敵は僕が止める!
 リイとレミリア様は、レイティアルト様を!」

 コルタを信じ、レイティアルトの執務室に駆けこんだリイとレミリアが見たのは、その首に刃を当てられたレイティアルトだった。


 音のしない執務室には、レイティアルトとラトゥナしかいない。

 鋼の刃はレイティアルトの首の皮で止まっていた。

 駆け込んだ二人に、ラトゥナは柳眉をあげる。

「次の王はロエナに。
 王太子の署名が終わるまで、しばし待つがいい」

 首に喰い込む刃と、突きつけられた王位譲渡書に、レイティアルトは眉さえ動かさなかった。

「職務怠慢だ、リイ」

 光騎士選で選ばれしレイティアルトの光騎士は、リイだ。
 どんな時も、何があっても、レイティアルトを守るのがリイの役目だ。

 唇を噛みしめたリイは、頭を下げた。

「申し訳ありません、レイティアルト様」

 息を止める。

 次の瞬間、ラトゥナの身体は吹き飛び、壁へと打ちつけられた。
 叩き落とされた銀の剣が宙を舞い、落ちてきた剣をレミリアが拾う。

 キールの血の滴る光剣を、ラトゥナに突きつけた。


「死罪です、王妃陛下」

 レイティアルトが頷けば、リイは躊躇いなく一瞬でラトゥナの命を奪う。

 喉元に突きつけられた剣を見つめたラトゥナは、壁に打ちつけられた衝撃に血濡れた唇で笑った。


「わらわを殺せば、レミリアにかけた魔術が発動する。
 レミリアは苦しみもがいて死ぬだろうよ。
 嘘か真か試してみるか?」

 唇の血をぬぐいながら起きあがるラトゥナの胸で、金の首飾りがきらめいた。
 レイティアルトの深翠の瞳が、冴え凍る。

「レイサリアの血を継ぐ我らに、魔術は通じぬ。
 第二妃陛下はご存知かと思ったがな」

 レイティアルトの嘲りに、ラトゥナは血の唇を吊りあげて嗤った。

「知っているよ。
 光星と讃えられる建国者レイサリア、その激烈な魔術は他国を遥かに凌駕し、あまねく魔術を無効化する。
 レイサリアの血に選ばれし正妃の子にしか、レイサリアの血は継がれぬという。
 その血を継ぐ者だけが、レイサリア王となれる。
 にも関わらずレイサリアは王族男子を皆殺しにする。
 その血を尊びながら、その血を誰より畏れてね」

 ラトゥナの瞳が、凍てついた。

「レイサリアの血は、レイサリアの血にて絶える。
 レミリアに術をかけたは、リイだ。
 リイにはレミリアから授かりし雷精、レイサリアの血の力が宿っている。
 リイがかけた術なら効くだろうよ。
 試してみるか?」


 鼓動が、途切れた。


 …………レミリアさまの命を奪う魔術を…………俺が、かけた…………?


「そ、んな──……!」

 リイの絶望を見下ろし、ラトゥナは嗤った。


「レミリアをただ眠らせる魔術など、わらわが掛けるはずなかろう。
 あれはレイサリアの血を屠る魔術、レイサリアの血を継ぐ者だけが使える魔術だ。
 さあ、レイティアルト。
 わらわを殺すかえ?」

 高らかに笑うラトゥナを見つめ、レイティアルトは息をついた。
 倒れ込むように腰かけられた椅子が、軋む。

「──……お前の望みは、女王ロエナか」

 レイティアルトの氷の目に挑むように、ラトゥナは頤をあげた。







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