【完結】きみの騎士

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──友を

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 レイティアルトの執務室に辿り着いた時には、肩で息をする三人の頬を汗が伝い、真白き衣は無残なまでに血に染まっていた。

 凍える冬の大気が、荒い息に、白く揺れる。

 執務室の前には、黒衣に身をつつんだ兵が、嶺を成した。

 その先頭に立つのは


「…………キール…………」


 見開かれたコルタの瞳が、歪んだ。

 リイは、キールをわずかに見あげる。


「退いてくれと言ったら、聞いてくれるか」

 キールは、目を伏せた。


「────友を斬る。
 ロエナ様のために」


 剣を抜くキールの瞳が、凍てついた。

 コルタは唇を噛みしめ、リイは顔をあげる。


「友を斬る。
 レミリアさまのために」


「リイ──……!」

 レミリアの悲鳴を背に、リイは剣を構える。


「コルタ、後ろを頼む」

「……っ──任せろ!」

 目をぬぐったコルタが、肩を叩いてくれた。


「レミリアさまのために、必ず勝ちます」


 星の瞳が歪み、細い指がリイの手を握った。


「──……リイ」

 あなたの指を握って、離す。

 駆けだした。




「あぁああァアアあ!」

 どちらの叫びが、わからなかった。

 剣が重なり、火花が散った。


 キールに加勢しようと押し寄せる兵をコルタが止め、レミリアの銀の炎が焼いてゆく。


 重なる剣の重みが、決勝戦の時とは明らかに違った。

 剣技を磨き、鍛錬を重ねたからじゃない。


 キールの照れた顔を、拗ねた頬を、あたたかなてのひらを、知ってる。

 どんなときも、リイの隣で笑ってくれた。

 皆がリイを憎んだときも、リイが女だとわかったときも、ずっとキールは友だった。


「…………キール…………っ」

 滲む雫に、前が見えない。


「リイ、すまない」

 風を切る刃が、リイを襲う。


 咄嗟にかざす剣が、一瞬遅れた。

 涙で歪む視界が、傾いた。


「リイ────っ!」

 コルタの、レミリアの悲鳴が聞こえた。


 身の奥にめりこむ刃に、リイは息を吸う。


 血が、あふれた。

 腹のなかに埋められた硬い鋼の冷たさが、体温と同化してゆく。


 目をあげたら、キールの目から涙が落ちた。


「──リイ──っ!」

 くちびるから、血があふれた。


「…………泣くくらいなら、斬るな」

「リイ!」

 レミリアが傍に来て傷を塞ごうとしてくれるのを、刺客が止める。


「リイ──っ!」

 助けに走ろうとしてくれるコルタも阻まれた。


 リイは、血の香のする息を吸う。


「──……友を、斬る」


 後ろに跳んだ。
 キールの剣が、リイの身から抜ける。

 赤い血が、噴きあがる。

 衝撃にくずおれる足を、踏みしめた。


 息を吸う。

 血の味がした。


 目を閉じる。

 上段から斬りつけるキールの剣を、閉じた瞼で止めた。


 刃の削れる音がする。


 力技を続けるのは分が悪い。
 腹から血が噴く。

 振り払って、跳んだ。

 リイの足元に、赤い血が滴った。


 キールは本気だ。

 リイを、コルタを、レミリアを、レイティアルトを殺し、ロエナの光国を築く気だ。


 ロエナのために。

 すべての血を、キールひとりが被る覚悟だ。







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