【完結】きみの騎士

  *  

文字の大きさ
上 下
132 / 152

──友を

しおりを挟む



 レイティアルトの執務室に辿り着いた時には、肩で息をする三人の頬を汗が伝い、真白き衣は無残なまでに血に染まっていた。

 凍える冬の大気が、荒い息に、白く揺れる。

 執務室の前には、黒衣に身をつつんだ兵が、嶺を成した。

 その先頭に立つのは


「…………キール…………」


 見開かれたコルタの瞳が、歪んだ。

 リイは、キールをわずかに見あげる。


「退いてくれと言ったら、聞いてくれるか」

 キールは、目を伏せた。


「────友を斬る。
 ロエナ様のために」


 剣を抜くキールの瞳が、凍てついた。

 コルタは唇を噛みしめ、リイは顔をあげる。


「友を斬る。
 レミリアさまのために」


「リイ──……!」

 レミリアの悲鳴を背に、リイは剣を構える。


「コルタ、後ろを頼む」

「……っ──任せろ!」

 目をぬぐったコルタが、肩を叩いてくれた。


「レミリアさまのために、必ず勝ちます」


 星の瞳が歪み、細い指がリイの手を握った。


「──……リイ」

 あなたの指を握って、離す。

 駆けだした。




「あぁああァアアあ!」

 どちらの叫びが、わからなかった。

 剣が重なり、火花が散った。


 キールに加勢しようと押し寄せる兵をコルタが止め、レミリアの銀の炎が焼いてゆく。


 重なる剣の重みが、決勝戦の時とは明らかに違った。

 剣技を磨き、鍛錬を重ねたからじゃない。


 キールの照れた顔を、拗ねた頬を、あたたかなてのひらを、知ってる。

 どんなときも、リイの隣で笑ってくれた。

 皆がリイを憎んだときも、リイが女だとわかったときも、ずっとキールは友だった。


「…………キール…………っ」

 滲む雫に、前が見えない。


「リイ、すまない」

 風を切る刃が、リイを襲う。


 咄嗟にかざす剣が、一瞬遅れた。

 涙で歪む視界が、傾いた。


「リイ────っ!」

 コルタの、レミリアの悲鳴が聞こえた。


 身の奥にめりこむ刃に、リイは息を吸う。


 血が、あふれた。

 腹のなかに埋められた硬い鋼の冷たさが、体温と同化してゆく。


 目をあげたら、キールの目から涙が落ちた。


「──リイ──っ!」

 くちびるから、血があふれた。


「…………泣くくらいなら、斬るな」

「リイ!」

 レミリアが傍に来て傷を塞ごうとしてくれるのを、刺客が止める。


「リイ──っ!」

 助けに走ろうとしてくれるコルタも阻まれた。


 リイは、血の香のする息を吸う。


「──……友を、斬る」


 後ろに跳んだ。
 キールの剣が、リイの身から抜ける。

 赤い血が、噴きあがる。

 衝撃にくずおれる足を、踏みしめた。


 息を吸う。

 血の味がした。


 目を閉じる。

 上段から斬りつけるキールの剣を、閉じた瞼で止めた。


 刃の削れる音がする。


 力技を続けるのは分が悪い。
 腹から血が噴く。

 振り払って、跳んだ。

 リイの足元に、赤い血が滴った。


 キールは本気だ。

 リイを、コルタを、レミリアを、レイティアルトを殺し、ロエナの光国を築く気だ。


 ロエナのために。

 すべての血を、キールひとりが被る覚悟だ。







しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

悪役令嬢?いま忙しいので後でやります

みおな
恋愛
転生したその世界は、かつて自分がゲームクリエーターとして作成した乙女ゲームの世界だった! しかも、すべての愛を詰め込んだヒロインではなく、悪役令嬢? 私はヒロイン推しなんです。悪役令嬢?忙しいので、後にしてください。

【完結】行き遅れ聖女の結婚騒動

天田れおぽん
恋愛
聖女ですが行き遅れと周りが圧をかけてくるので結婚しました。 村は聖女を失って大騒ぎですけど私は悪くありませんよね? ※他サイトでも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  初書籍 「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  紙書籍も電子書籍も発売されております。  書籍は、月戸先生による可愛く美しいイラストと共にお楽しみいただけます。    紙書籍版はピンクの効いた可愛らしくも情熱的な表紙が目印です。  電子書籍版はブルーの効いた爽やかで可愛らしい表紙が目印となっております。  紙書籍のほうも帯を外せば爽やかバージョンになりますので、これからの暑くジメジメした季節への対策として一冊いかがでしょうか? (笑)    大幅加筆・改稿を経て書籍いたしましたので、アルファポリスサイト連載時とは、また違った魅力のある作品となっております。  文字数が足りないと困ると思って頑張った結果、ちょっとボリュームが……となっているような気がしますが。(笑)  書籍を手売りする感覚でアルファポリスサイトでの投稿も頑張っていこうと思っています。  書籍 「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  と著者  天田れおぽん  を、どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m  ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

公爵家の赤髪の美姫は隣国王子に溺愛される

佐倉ミズキ
恋愛
レスカルト公爵家の愛人だった母が亡くなり、ミアは二年前にこの家に引き取られて令嬢として過ごすことに。 異母姉、サラサには毎日のように嫌味を言われ、義母には存在などしないかのように無視され過ごしていた。 誰にも愛されず、独りぼっちだったミアは学校の敷地にある湖で過ごすことが唯一の癒しだった。 ある日、その湖に一人の男性クラウが現れる。 隣にある男子学校から生垣を抜けてきたというクラウは隣国からの留学生だった。 初めは警戒していたミアだが、いつしかクラウと意気投合する。クラウはミアの事情を知っても優しかった。ミアもそんなクラウにほのかに思いを寄せる。 しかし、クラウは国へ帰る事となり…。 「学校を卒業したら、隣国の俺を頼ってきてほしい」 「わかりました」 けれど卒業後、ミアが向かったのは……。 ※ベリーズカフェにも掲載中(こちらの加筆修正版)

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!

白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、 《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。 しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、 義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった! バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、 前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??  異世界転生:恋愛 ※魔法無し  《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆

【完結】おしどり夫婦と呼ばれる二人

通木遼平
恋愛
 アルディモア王国国王の孫娘、隣国の王女でもあるアルティナはアルディモアの騎士で公爵子息であるギディオンと結婚した。政略結婚の多いアルディモアで、二人は仲睦まじく、おしどり夫婦と呼ばれている。  が、二人の心の内はそうでもなく……。 ※他サイトでも掲載しています

処理中です...