きみの騎士

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 石牢の床の隙間に刃を固定し自分の縄を切り、自由になった手でレミリアの縄を切る。
 白い上衣の裾を切り裂き、紫に変わったレミリアの手首と足首を覆った。

「……申し訳ありません、レミリア様」

「おとなしくしろ!」

 守衛の声に息を呑むレミリアの手足と自分の手足を荒縄で覆ったリイは、鉄格子に指を掛けた。

「こんなところに居ていいのか。
 そろそろ魔術が発動するぞ」

「……何?」

「レミリア様の魔力さえも奪う術だ。
 魔力のない者が浴びれば──」

 リイの言葉に重ねるように、レミリアの指先から銀の光が放たれる。

「きゃあァ!」

 演技と思えぬレミリアの悲鳴に、守衛たちの顔から色が消えた。

「お、おい!」

「逃げろ!」

「ぎゃあァアああああ!」

 溢れゆく閃光とともに、リイとレミリアは金切り声を張りあげた。





 打ち合わせもしなかった即興の演技の効果は、あったらしい。
 地下の牢獄に蠢いていた守衛がいなくなる。

 吐息をついたリイと顔を見あわせて笑ったレミリアの瞳が、歪む。


「裏切らないと誓ったのに、どうして──……!」

「ルフィスに逢うために、ルフィスにレイサリア転覆を思い止まってもらうために、俺はレイサリアを裏切りました」

 ふるえる拳で告げたリイは、ラトゥナと話したことすべてをレミリアに伝えた。
 握り締められたレミリアの指が、白くなる。

「…………兄さまと私より、ルフィスを選んだのね」

 リイの目が、歪む。

「ルフィスがギゼノスの秘された王族で、使い捨ての駒としてレイサリアに敵対させられているなら、どうしてもルフィスの傍に行きたかった。
 ……ルフィスを、守りたかったんです」

 何もできなかった手を、握り締めた。

「レミリア様にはレイティアルト様が、レイティアルト様にはレミリア様がいらっしゃる。
 でもルフィスは……誰にも望まれぬ子だと言っていました。
 ルフィスの周りに敵しかいないなら、俺だけは傍に行きたかったんです。
 ……ルフィスがもう、昔のルフィスではなくても」

 星の海の瞳から、涙があふれた。

「どうしてそれを伝えてくれないの!
 どうしてラトゥナの言いなりになったの!
 ……どうして……っ!」

 レミリアの拳がリイの肩を叩く。
 受けとめたリイは、目を伏せた。

「レイサリア光国に仇なすルフィスは、レイティアルト様の敵です。
 ……ルフィスの身に危険が及ぶことなんて、できなかった」

 唇を噛んだリイは、顔をあげる。

「逃げましょう、レミリア様。
 一刻も早く脱出を。
 俺がレミリア様をお守りします」

 己が身から光剣を引き抜いたリイに、レミリアが星の瞳をまるくする。

「ど、どうやって仕舞ってるの?」

「光騎士の秘密です」

 微笑んだリイは扉の前に守衛がいないのを確認すると、光剣を扉と壁の間に滑り込ませた。
 微かに光を放つ剣の柄を握る指に、精神を集中させる。

 刃から、銀の光が溢れた。

 息を止め、降り下ろす。

 ガキィン────!

 鋼鉄の鍵が、真っ二つに割れ落ちた。


「行きましょう!」

 リイが差し出す手を見つめたレミリアの瞳が、揺れた。


 …………自分の手など、取りたくないだろう。

 目を伏せたリイが手を引こうとしたとき、レミリアの冷たい指が、リイの手を握った。

 息をのむ。

 見つめたら、レミリアは顔を逸らした。


 つながる指は、ほどけない。







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