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真実
しおりを挟む「レイティアルト様なら今議会だ。
もうしばらくで出て来られるから報告は──」
リイの言葉に首を振ったクグの短い灰色の髪が揺れる。
「……ルフィスの話を聞いたんだ」
「何か分かったのか!」
思わずクグの肩を掴んだリイに、クグは目を伏せる。
「……言ったほうがいいのか、わからない。最高機密だ。
それ以上に、この情報がリイのためになるのか、わからない」
「どんなことでもいいんだ、誤りでもいい!
頼む、クグ──!」
鍛えあげられたクグの硬い腕をつかんだ。
灰色の瞳をさまよわせたクグが、リイの手を握る。
「──……聞いてもどうか、聞かなかったことにしてほしい。
レイサリア光国に留まると、約束してくれるか」
息をのんだリイは、クグを見つめた。
「……ルフィスは……敵国の……」
声が、ふるえた。
かすかに目を瞠ったクグは、リイの手をにぎる指に力を籠めた。
「──……知っていたのか」
リイは唇を噛んだ。
「レイティアルト殿下は、ルフィスをご存知ない。
敵国貴族の隠し子なら分からないと聞いた」
クグはリイの目を、貫くように見た。
「聞かなかったことにしてくれるか」
躊躇ったリイは、頷いた。
真っ直ぐクグの目を見る。
細く息をついたクグは、薄い唇を開いた。
「隠し子として秘されてきたが、ルフィスは敵国ギゼノスの王族らしい。
我らレイサリア光国を滅ぼさんがため、暗躍している。
レイティアルト殿下が断罪なさるのを見越して貴族の不正を暴き、不満を募らせているんだ。
貴族を抱きこみ、内通者を増やし、レイサリア光国を転覆させる革命の首謀者が、ルフィス王子だと。
正統なる王族にはできない汚い仕事を、隠し子の彼が担っている」
血が、凍った。
「…………ル……フィス……が…………?」
クグの手が、崩れそうなリイの肩を支えた。
「レイサリアは巨大な国だ。リディリア大陸を支配していると言っても過言ではない。
英明すぎるレイティアルト様の弱点があるとするなら、容赦がないことだ。
レイティアルト様に断罪させ、貴族の反感を煽り、内部から崩壊させるしか、敵国には手がない。
……だが成功する確率は大変低い。
身分に関係なく、レイティアルト様はその者の功績のみを見てくださる。
レイティアルト様に心酔する優秀な民が急増している。
反乱したとしても腐った貴族を一掃できて却って助かるくらいの、そよ風だ」
クグの灰の瞳が、凍る。
「ルフィスは失敗する。
露見したら、真っ先に切られるぞ。
レイサリアからも、ギゼノスからも」
絶望を告げる声だった。
「……言わない方がいいと思った。
だが落ち込むリイを、これ以上見ていられない。
ルフィスは我らがレイサリアに仇なす者。
どうかレイティアルト様を裏切らないでほしい」
クグの手が、リイの手を握る。
「ルフィスのことは忘れてくれ。
我らの、敵だ」
リイの心は、焼き切れた。
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