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ブチ!
しおりを挟むブチ!
レイティアルトのどこかが切れた音が、リイにも聞こえた。
額に青筋を浮きあがらせたレイティアルトの拳が握られる。
「い、いいから、レイティアルト。
本当のことだし」
レイティアルトの拳を包んで囁いたリイを振り向いたレイティアルトは、やわらかに瞳を細めた。
「ああ、リイの顔は癒されるな。
──なんか今、ぶん殴りそうになった」
「切れた音、聞こえた。
……ありがとう、レイティアルト」
ほのかに熱くなる頬で、リイが笑う。
微かに目を瞠ったレイティアルトの長い指が、そっとリイの頬をたどる。
「月華も霞むな」
「だ、だから、やりすぎだし、王女の目の前!」
「忘れる」
「忘れるなよ!」
大国王女の目の前で王女を無視して歓談する二人にブチ切れたのは、もちろんゲルク王女だ。
「わたくしを差し置いて何をなさっておいでです、レイティアルト様!」
罅割れるおしろいが崩れゆく顔面で、レイティアルトの腕を掴んで振り向かせようとする王女の指が動いた瞬間、白き衣が舞った。
閃光が走る。
ゲルク王女の喉元に、濡れたように輝く銀の切っ先が突きつけられた。
レイティアルトを背に庇い、氷の目で王女を睨みつけるのは、銀に彩られた、リイだ。
己が身から光剣を抜き放ったリイの声が、静まりかえる舞踏殿を切り裂いた。
「許可なくレイサリア光国王太子殿下に触れることは、死罪に値する!」
首の皮に触れんばかりに迫る切っ先に、見えぬほど速い刃の軌跡に、ゲルク王女は震えた。
「…………な──な、んと──無礼な!
わらわがゲルク王女と知っての振る舞いか!」
王女を見おろし、切れあがる目でリイが告げる。
「レイサリア光国王太子殿下に許可なく触れる者は、斬る。
基本的な法も知らぬのか。
新興国ゲルクの王女が、触れていい御方ではない!」
気魄が走る刃の先が、濡れたように輝いた。
「下がらないなら、斬る!」
ひるがえる白き衣と黒き髪が、風に舞う。
切っ先には一点の曇りもなく冷徹が漲った。
俺はレイティアルトに任命された、レイティアルトの光騎士だ。
レイティアルトが頷けば、斬る。
リイの瞳が凍りつく。
後退る王女を、あでやかささえのせて睥睨し、レイティアルトは微笑んだ。
「リイは至光騎士戦で優勝した光騎士です。
私の傍で私の執務を支え、誰より私を守ってくれる。
これ以上の女など、いません」
目を瞠ったリイの頬が熱い。
リイの頬を撫でたレイティアルトは、ゲルク王女に向き直る。
つややかな漆の髪が流れ、深淵の翠の瞳が凍てついた。
「心ない臣が招待したそうですが。
私は貴方を招聘などしていない。
即刻、お帰りを」
睥睨が、これほど芳しい人を、知らない。
「ここは我が千年光国レイサリア。
貴方の出る幕など、ない」
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