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はじめて!
しおりを挟むレイティアルトの断固たる、隣国王女のお迎え拒否に、コルタとキールの目が点になる。
「は──!?」
「が、外交問題に発展しますよ!」
あわてふためくコルタの進言に、深翠の瞳が据わる。
「来ても踊らぬと断った、招待もしていない、なのに来やがるんだ!
喧嘩を売ってるとしか思えない!」
「……いや、愛を捧げてるんですよ……」
突っ込んだコルタを睨みつけるレイティアルトから、コルタを守るようにリイは前に出る。
「ゲルクは交易相手としても重要な国だぞ。
ほんとに行かない気か、レイティアルト」
リイの心配の声にレイティアルトは目を細め、コルタとキールは真っ青になった。
「うわあ!
リイ、レイサリア光国王太子殿下を呼び捨てた!?」
「だ、断罪ものだぞ!」
────……あ。
停止するリイの髪に、長い指をからめ、レイティアルトは笑った。
「いいんだよ、リイは。
他には内密に」
真っ赤になったコルタとキールが、胸に手をあて頭をさげる。
「御意」
──絶対に誤解した!!
燃える頬であわあわするリイを押さえたレイティアルトは、唇を開いた。
「ゲルク王室が激昂したとしても、民は王室の思惑を外れて動くほど、両国の交易は盛んだ。
我がレイサリアを切れば、泣くのは向こうだ。
千年光国レイサリアに、喧嘩を売りたいなら売るがいい!」
噴きあがる、おどろおどろしい殺気に、とばっちりを恐れた皆で後退る。
リイは肩を落とした。
「愛を振りまいてるんだよ、レイティアルト」
「要らん!」
間違いなく近隣諸国随一の顔面を誇るレイティアルトが言うと、余計ひどい!
ひきつる皆を無視したレイティアルトは、おごそかに宣言した。
「とにかく行かぬ。出迎えは必要ない。
招待してないのに来やがるとか、頭湧いてんじゃないのか?」
「愛がね。噴水のようにね」
リイの言葉を無視したレイティアルトの瞳が吊りあがる。
「舞踏会にも招待しないから来るなと言っておけ!」
「いえ、あのそれは──……重鎮の方が勝手に招待を──」
言い難そうに進言したキールを、吹雪の目で睨みつけたレイティアルトの空気が凍った。
「リイ!
脳みそ湧いた女の鼻を、思いッッきり、へし折れ!」
黒髪を逆立てたレイティアルトに指されて任命されたリイは、口を開けた。
「────はぁあ!?
できないから!!」
仰け反るリイを、コルタとキールが三日月の目でによによ見てる!
たすけてくれる気、皆無なのが伝わってくるよ。
ひどい!
「そういうのはレミリア様にこそ言えることであって、人選間違いすぎてる、レイティアルト!
ひらっひら似合わないから!
千年光国王太子の評判が、冥界に埋まる!」
拳を握りしめるリイの叫びは、黙殺された。
何をされているのか全くわからない時間が、延々と過ぎてゆく。
顔に泥のようなのを塗りたくられ、髪を梳られ、腰をぎゅうぎゅう締められ、爪を丁寧に磨かれた。
やってもやっても延々! 終わらないとか、どういうことですか!
「お胸、どうしましょうか。……偽物つめますか?」
着つけてくれていた侍女がいたわしそうに聞くのに、リイは目を落とした。
「──……すみません、なくて」
ずっと布を巻いて武芸の鍛錬に励んでいたので、リイの胸は押さえつけられすぎて、ほとんどない。
邪魔じゃなくていいし、身軽だし、女とばれなくていいと思っていたのだけれど。
胸元の大きく開いた衣は、絶望だ!
「ああ、大丈夫ですよ、何とかなります。ちょっとお胸失礼しますね」
「──え!?」
何がどうなったのか、わからない。
千年光国レイサリアの秘法 (たぶん) でリイの胸は見たことのない感じに仕上がった。
……あの、谷間があるように見えるんですが、幻覚ですか……?
「うわあ。──はじめて見た」
「いつでもおつくりしますよ、リイ様!」
桃色の髪を揺らして微笑んでくれる侍従のモマに、リイは引き攣った。
「二度と必要ないと思う」
「そんなこと絶対ありません!」
叫ぶモマと侍従の皆さんが、レイティアルトのありえない厳命『レミリアを超えろ』に向けて、力を振り絞って奮闘してくれた。
「できました!」
汗だくで胸を張ってくれる。
沸き起こる拍手に、白目を剥きそうだったリイは、力なく笑った。
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