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犯人は近くに!
しおりを挟むふくれたリイは、ぷんぷんするレイティアルトを見あげる。
「……メデュのこと、ほんとなのか」
レイティアルトは頷いた。
「機密院のクグが調べた。
レイサリア光国一の間諜だ。間違った報告をあげたことがない」
目を伏せたリイは、唇を噛んだ。
レイティアルトの傍で執務に関わっているから、クグの優秀さは知っている。
灰の髪に灰の瞳の目立たない青年なのだが、潜入の時は髪を染め、人相まで豹変するのだという。
そのクグが上げた報告書なら、きっと正しい。
「…………メデュはずっと、苦しんできたんですね。
きっと、今も」
握る拳が、震えた。
「今は随分と楽になったようだ。
リイのおかげで」
ふてくされたように呟いたレイティアルトは、微笑んだ。
「リイが魔道具研究室に通うようになってから、メデュが明るくなったと評判だ。
不遇なメデュの頭脳が埋もれるのが惜しくてな、メデュのために作った魔道具研究室の暮らしは、楽しんでくれているそうだ」
「給料返せって絶叫されたって泣いてましたよ!」
「……いやそれは、あまりにあまりなものを莫大な予算を掛けて造ってくれたからでな──」
「レイティアルトの執務をたすけてくれる希望なのに!!」
深翠の瞳が、まるくなる。
「…………もしかして、そのために魔道具研究室に……?」
茫然と呟くレイティアルトの眦が、ほんのり紅い。
ものすごくうれしそうだよ、レイティアルト!
ぶすりと膨れたリイは、頷いた。
「……びっくりさせたかったのに」
「浮気だとばかり思ってた!
なんだ、そうか!」
満面の笑みのレイティアルトに抱きつかれたリイが、首を傾げる。
「レイティアルト、その浮気っていうのは……」
「レイティアルト様、機密院のクグでございます。
ご依頼の件のご報告に──……っ!!
し、ししし失礼いたしましたぁあアアア────!!」
たぶん、抱きあうように見えたのだろうレイティアルトとリイの姿に、王太子執務室の扉を開けた次の瞬間、クグは灰の髪を挟んで扉をバアンと閉めた。
「痛え!!」
髪がブチブチ抜けたのだろう、涙目で扉をあわあわ開けたクグが、
「か、重ね重ね失礼を────!!」
耳まで真っ赤になって、あわあわ扉を閉める。
腰に抱きつくレイティアルトを引き剥がしたリイは、執務室の扉を開ける。
床に散らばる報告書を拾っていたクグが跳びあがって、しゃがんだリイはクグの灰の瞳を覗き込んだ。
「誤解したみたいだけど……」
「わ、わわわわ解ってるよ、リイ!
俺は何も見てない! 何も聞いてない! 何も言わない!!
これでも俺は機密院所属だぞ!!
口は堅い、完璧だ!!」
胸を張るクグに、リイの目が胡乱になる。
「なあ、クグ。
この間、クグが来た直後に噂が爆発したんだけど……」
ちょいちょいとリイを手招いたクグが、扉の両脇に立つ光騎士たちを指した。
「扉を開けると、見える」
………………。
「く──っ!
身内の犯行か──!!」
目を剥くリイに、扉を守っていた光騎士たちがによによした。
「いやあ、光騎士から初の第二妃の日は近いな!」
「リイ、協力するからな!」
「あ、ありえないですから!!」
拳を握るリイの叫びは、三日月形の目をした光騎士たちには届かない。
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