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大切なお知らせ
しおりを挟むお菓子を口いっぱいに頬張ってリスみたいになったメデュは、大変愛らしかった。
思い出したら笑みが零れる。
「お! 最近落ち込んでたのに、今日は元気だ!」
光騎士殿に戻ったリイの肩を、にこにこコルタが叩いてくれる。
変わらない笑顔と、あたたかい掌に、リイはこくりと頷いた。
「心配してくれた?
ありがとう、コルタ」
やさしくしてくれたら、してくれるほど。
泣きたくなるんだ。
言えないから、笑う。
「ちょ……!!
リイが本気で僕を落としに来るんですけど────!!」
涙目なコルタに、手を挙げた。
「行ってない」
コルタの頬がリスみたいにふくれて、光騎士たちが爆笑する。
一緒に笑ったザインは、リイの肩に手を置いた。
「重要な知らせだ。
心して聞くように」
いかめしいザインに、息をのんだリイは頷く。
…………敵国へと渡ろうとしていることが、バレた…………?
止めて欲しいのか、行かせて欲しいのか、解らなくなる。
硬直するリイに、おごそかにザインが告げる。
「今秋の舞踏会、レイティアルト王太子殿下が、相手役にリイを指名なさった」
「……はぁあアアア────!?」
リイの絶叫に、静まり返った光騎士殿の奥、高々と掲げられたレイサリア光国旗が、揺れた気がした。
「ど、どどどどどういうことだ──!」
分厚い扉を蹴立て、リイは王太子執務室に飛びこんだ。
髪を逆立てるリイが言いたいことを察したのだろう、レイティアルトが笑う。
「隣国ゲルクの王女がやって来るから相手をしろと言われた。
いやだと言ったら他の女を連れて来いと言う。
リイにした」
「当て馬か。それならまあ──……よくない! どうしてよりにもよって俺に!
レイティアルトの威光が泥に埋まる!」
叫ぶリイに、レイティアルトが笑う。
「リイがいいから」
きゅ、と手を握られて、軽く引かれた。
倒れ込むような柔な鍛え方をしていないリイが踏み止まろうとするのに、肩を揺らしてレイティアルトが笑う。
「いいからおいで」
腕を引かれ、抱き寄せられる。
レイティアルトの、やさしい香りに包まれる。
「泣いてるリイを慰める腕は、ここにある」
「泣いてない……!」
噴水の庭でひとり泣くのは、誰も知らないリイの秘密だ。
なのにレイティアルトの長い指が、リイの目の縁をやさしく撫でた。
「目が赤い。すぐわかる。
いいから舞踏会の装束を作れ」
「俺には無理だ、レイティアルト!」
眉をあげたレイティアルトは、微笑んだ。
「リイに呼び捨てにされるのは、いいな」
「……うわ。
あの、無意識で──ごめん」
本来なら、死罪だ。
頭をさげるリイに、レイティアルトの笑みがやわらかに溶ける。
「だから、いいって言った。
リイだけ」
深翠の瞳で、レイティアルトが笑ってくれる。
レミリアが笑ってくれなくなった分を、レイティアルトが埋めてくれる。
「……ありがとう」
かすれる声に、大きなてのひらが降ってくる。
「おとなしいリイは、可愛いが。
最近頻繁に魔道具研究室に通っているようだな?
人形のように麗しく、人形のように心を動かさぬと評判のツァルザ珠爵の子息と、随分仲良くなったと」
レイティアルトの深翠の瞳が冷気さえ帯びて細められるのにも構わず、リイはぽかんと口を開けた。
「………………珠爵?
メデュが??」
「呼び捨てか!」
目を剥くレイティアルトに、あわあわする。
「だ、だだだって、珠爵とか聞いてない……!」
え、一番偉い珠爵なの?
ひとりぽっちで研究してるのに……!
わたわたするリイに、レイティアルトは吐息した。
「……メデュは亡くなった前妻の子で、後妻の子がツァルザ珠爵を継ぐことになっている。
頭が良すぎて狂人だと思われているのと亡き前妻の子ということで、ツァルザ家での地位は不遇だそうだ。
……本人は家名を名乗らない。
家は捨てたそうだ」
聞いたリイは、息をのむ。
「オンライン小説の主人公みたいだ……!
うわあん! 今度とびきりのお菓子持っていく──!」
拳を握るリイに、レイティアルトは目を瞬いた。
「……おんらいん……?」
「えへ」
笑ってごまかした!
「でもレイティアルト、よく知ってるな……!」
仰け反るリイに、レイティアルトの瞳が胡乱になる。
「……ふつう、浮気されたら相手がどんな輩なのか調べるだろう」
「………………は????」
意味が解らない!!
顔に書いたリイに、レイティアルトは長い長い長い溜め息をついた。
「え、長くない?」
「誰のせいだ!!」
眉を吊りあげるレイティアルトにリイが手を挙げる。
「理不尽な叱責反対!
何か俺、いつも訳の分からないことで叱られるんだよね」
「訳が解っていないのは、リイだけだ!!」
断言された。
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