きみの騎士

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処罰

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 光騎士リイが、女性だった!

 王宮は震撼した。

 誰もが仰け反る騒ぎとなり、リイは隠匿していた罰として、ひと月の謹慎を命じられた。

 命じたのはレイティアルトではない。光国議会だ。


「お前ら、リイを謹慎させた後の俺の激務をどうしてくれる!」

 レイティアルトが涙ながらに抱きついて引き留めてくれた。

 うん、わかるよ。
 書類整理だけでも手が欲しいよね。
 あと暗算とか暗算とか暗算とかして欲しいよね!

 しかしそのめちゃくちゃイケメンな顔で抱きつかれるとか心臓がバクバクするのですがががが!

 わたわたするリイの前で、重鎮たちは残念そうに首を振った。

「女性であることはよいのです。隠匿はよくありません。
 けじめです、殿下」

 くずおれるレイティアルトの肩を、重鎮が叩く。

「レイティアルトさまと同等の優秀さを誇るレミリアさまがいらっしゃいますよ」

「──レミリアにも多大な執務がある。
 俺のところまで手が回らぬからリイなんだろうが!」

 重鎮たちは、微笑んだ。

「ほんの数か月前まで、レイティアルトさまのお傍に、リイはいませんでした」

 ぐう、と項垂れたレイティアルトは、涙目だった。

 涙目でもめちゃくちゃかっこよかった。




 ルフィスはきっと、敵国にいる。

 謹慎中の光騎士リイが敵国へと出奔すれば、世話になった皆に在りえぬほどの迷惑を掛けてしまう。

 光騎士を解任し、放逐してくれたらよかったのに、とため息をつきたくなる気持ちを、皆の笑顔と励ましを思い出して、慌てて止めた。


 皆のやさしい気持ちを裏切りたくない。

 けれど


 ルフィスに、逢いたい。


 ルフィスに逢うためなら、敵国へ。


 世話になったレイサリア光国に傷をつけず、敵国に渡る道はあるのか。

 希望を掴んだら、止まれなかった。


 謹慎中なのに、王宮を抜け出したリイは、光都へと向かう。
 行き先はレイティアルトが教えてくれた、世界中への馬車が集まる大広場だ。

 数多の馬車がひしめき、波のように人が行き交う。
 底辺の平民リイは、光騎士の衣を脱げば、一瞬で街に溶けた。

 広場の中央には案内人が立っていて、どの馬車に乗ればいいのか教えてくれる。
 リイが向かうと、女の子が手を挙げた。

「かっこいーお兄ちゃん、どこへ行きたいの?」

 男に見えたらいいと思ってきたから、ふつうにしていると男に見えるらしい。

 もう、隠さなくていい。

『お姉ちゃんなんだ』と言おうとして止まる。
 旅をするなら、男に見えるほうが安全かもしれなかった。

 誰とも結ばれてないのに、奥さん、旦那さんと言われたり、子どもがいないのに、お母さん、お父さんと呼び掛けられる人も、傷つくだろう。

 心と体の性が違う人は、何気ない呼びかけに、いつも、抉られるのだろう。

 悪気はないのかもしれない言葉に、苦しむ人がいる。
 抉る人は、きっと、ちっとも、気にしない。

 けれど、抉られる人がいるなら、その言葉は、刃だ。
 斬りつけておいて、血を流す心を横目に、悪気がないと笑うだなんて。

「お兄ちゃん?」

 首を傾げられたリイは、目を落とす。

 この子も、女の子だと思ったけど、違うかもしれない。
 女の子のふりをしないと生きてゆくのが辛いから、女の子みたいに振る舞っているのかもしれない。

 女らしい、男らしい、女々しい、雄々しい、女みたい、男みたい、ぜんぶ、差別だというのに。

 差別なんて、したくない、思っているのに、反射的に判断してる。

 この人は、女。
 この人は、男。

 自分が思う『女はこんな感じ』『男はこんな感じ』とちょっと違うと違和感が、ぞわりと背を走る。
 それは生殖相手を見つけるための、本能なのかもしれなかった。

 判断を押しつけられて、いやなのは、自分なのに。

 吐息したリイは強張る心を押し込み、笑みを張りつけた。

「ギゼノスへの馬車はあるかな」

「ギゼノス!」

 悲鳴のような子どもの声に、辺りがどよめいた。

「……ギゼノスだって」

「敵国だよ」

「あんなとこに、何しに行くんだい」

 凍る雰囲気に、子どもは慌てたように口を塞ぐ。

「そ、それは、お姉ちゃんに──……」

 子どもが指したのは、角にある小さな案内所だった。






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