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告白
しおりを挟む「俺は、女です。
言えなくて申し訳ありませんでした」
深く頭を下げたリイの言葉に、月光石の光騎士殿にいた誰もが瞠目した。
「女だったのか!」
「うわ、ごめん、僕、色々失礼なこと言わなかったかな?」
仰け反るキールとコルタに、リイは頭を下げる。
「すまない。
……ずっと言えなかった。
──ルフィスの傍に行きたかった。少しでも情報が欲しかった。
光騎士の地位を、失えなかった」
かすれる声で頭を下げるリイの方を、コルタのごつごつの手が支えてくれる。
「わかるよ。
泣かないで、リイ」
「俺は女性に負けたのか──!」
頭を抱えたキールは、すぐに起きあがる。
「リイだからな」
ふんとキールは鼻を鳴らした。
リイは、目を瞠る。
「……ゆるして、くれるのか」
「許すも許さぬもない」
「リイは僕の友だちだよ。
これまでも。これからも」
涙の向こうに、友がゆがむ。
「……ありがとう」
「泣くな!」
肩を抱いて、笑ってくれた。
「今まで隠匿していたことについては、処罰が下るやもしれぬ。
確認したが、光騎士に性別の規定はない。
リイは至光騎士戦で優勝した光騎士だ。
これからも励むように!」
光騎士団長ザインの言葉に、息をのむ。
鋼の瞳で、ザインは笑ってくれた。
胸に手をあて、膝をついたリイは頭をさげる。
涙に染まるリイの肩を、光騎士皆がいつものように叩いてくれる。
「気にするな、リイ」
「その腕は、皆が知ってる」
笑ってくれる。
声をあげて泣きだしたリイを、皆の腕が抱きしめた。
レイティアルトの私室は王宮の最奥、遥か高い塔の上にある。
運動不足を強制的に解消するために、一番高い塔の上に私室を持ってきたらしい。
お蔭でリイの足腰まで鍛えられすぎて困る。
延々続く螺旋階段は、数えたら負けだ。
千年光国レイサリア王太子殿下の私室、というと想像の追いつかない絢爛たる世界かと思うが、レイティアルトの私室は、初めて見たリイが
「………………は!?」
仰け反ったほど質素だ。
家具は代々伝わるものらしく、全面に彫刻がなされ威容を誇るが、宝玉や金に彩られたきらびやかな調度類は一切ない。
装いも舞踏会のものすら質素にしろとレイティアルトは厳命する。
簡素な衣さえ豪奢に見えるレイティアルトだからできる技だ。
レイティアルトの倹約だけで、貴重な薬草を育てる薬草苑が林立する。
ならば薬草苑をぼんぼん建てろが、レイティアルトの心意気だ。
長い階段をのぼりきり、重々しい扉を叩いたリイに、声が飛ぶ。
「遅い! リイ、何してた!」
朝のレイティアルトは、くっつく瞼を無理矢理引き剥がし、寝巻きで執務を遂行しているから、大抵おこだ。
特大の雷を覚悟で、息を吸う。
「俺は女です、殿下。
申しあげられなかったことを、お詫びします」
深く、頭をさげた。
限界まで見開かれた深翠の瞳が、止まる。
「……………………は?」
つむじから爪先までリイを凝視したレイティアルトは、リイの目に冗談や偽りがないか確認するように、幾度もリイの目を覗きこんだ。
「………………至光騎士戦、優勝?」
口を開けたレイティアルトは、その目で見た決勝戦を思い出したのだろう。
寝起きの髪をぐしゃりと掻きあげ、長い息をついた。
「──月華の騎士の訳がわかった。
皆には言ったのか」
「はい」
「……レミリアにも」
眉をゆがめるレイティアルトに、目を伏せたリイは、頷いた。
「レミリアは?」
リイは、ふるえる拳を握る。
「……俺の首をお望みではないと」
目を見開いたレイティアルトは、吐息した。
「……当たり前だ」
天を仰いだレイティアルトが、リイを見遣る。
「……そうか、女か」
ちいさな声が、レイティアルトの唇の向こうに消える。
長い指がリイの頬を確かめるように撫でて、すぐに離れた。
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