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懇願
しおりを挟む「……知らぬと言ったはずだが」
硬い声に、リイは頷く。
「伺いました。
でもルフィスの名に反応したのは、殿下だけでした。
今まで毎日、光国中の貴族に聞いて回りました。
コルタもキールも光騎士たちも、衛士も騎士も魔道具研究室のメデュも、レミリアさまもゼイエル緋爵も、隠し子の名まで調べてくれた。
それでも見つからないんです」
リイは、唇を噛み締める。
「ルフィスがいない。
でもルフィスは光騎士になると言った俺を待っていると言ってくれた。
レイサリア光国の人だったはずです」
すがるように、リイは王太子を見つめる。
「消息を知りたいんです。
もう一度、逢いたい。
教えてください、レイティアルトさま……!」
地につくほど深く、頭をさげた。
レイティアルトには、知らないと言われた。
時間があれば見ておくと言ってくれ、調べてくれたらしいが、公には残らぬ名だと告げられた。
だがルフィスの名に、ほんの微かにだが反応したのは唯ひとり、レイティアルトだけだ。
わずかでも信頼してもらえるようになったら聞こうと決意したリイは、レイティアルトの信を得るため、執務を喰らいつくように学んだ。
できる限りのことを頑張ったつもりだ。
暗算とか暗算とか暗算とか暗算とかね! ちょこっと書類整理もね!
その効果があったのか、わからない。
リイの勧めた茶をレイティアルトが飲んでくれたのは、初めてだった。
それに賭けた。
すがる思いのリイに、レイティアルトは首を振る。
「すまない、リイ。
わからない」
────闇が、降りた。
「昔の資料までめくってみたが、やはり残されない名らしい。
敵国の貴族なら、隠し子まではわからない」
偽りのない、静かな声だった。
光国と属国のすべてを掌握する、記憶の塊であるレイティアルトでさえ、覚えていない名だ。
残る可能性は…………ルフィスが、敵国の貴族…………?
ミナエは、敵国のひめさえ訪れる秘湯だ。
レイサリア貴族と敵国のひめの悲恋の話が、幾つもある。
その子供がルフィスなら、望まれない子だったというルフィスの話も、暗殺されようとしたことさえ、納得できた。
あれだけ聡明なルフィスが、家名をリイに伝えなかったのは、きっと訳がある。
ルフィスが敵国のひめとレイサリア貴族の子なら、家名を教えられないのも当然だ。
この世界では、家名は母から継ぐからだ。
ほんとうに父の子なのかは、どんな人でもびみょうに疑わしいが、母の子であることは間違いない。
ルフィスが敵国のひめの子なら、レイサリア光国では家名は決して名乗れない。
レイサリアや親交国のひめの子なら、きっとルフィスは家名を教えてくれたと思う。
だがルフィスはリイに、家名を告げなかった。
光騎士になるまでリイを待つと約束してくれたのは、ルフィスがレイサリアの子として扱われた場合の話だろう。
ルフィスが敵国へと引き取られていたら、逢えるはずもなかった。
「…………そう、ですか…………」
闇の底に、沈むようだった。
母に聞くと言ってくださったロエナ殿下からの連絡は、何もない。
ロエナ殿下の母上は第二妃とはいえ王妃陛下だ。
平民のために貴重な時と財を割いて、ルフィスの捜索を行ってくださるとは思えない。
ルフィスについて何か解りましたかと伺う機会さえ、なかった。
ルフィスを知るかもしれぬ最後の希望が、レイティアルトだった。
きみに逢いたくて、ここまで来たのに
光騎士になっても、ずっと、ずっと捜していたのに
…………ルフィスが……敵国に…………
「そんなに大切な人なのか」
眉をしかめるレイティアルトに頷くリイの瞳から、涙が落ちた。
「…………ルフィスの傍にゆけないなら、もう…………」
こぼれる涙に、リイの世界が、壊れてく。
「…………リイ」
レイティアルトの長い指が、リイの涙をぬぐってくれる。
…………レイティアルトは、いい匂いがする。
厳しいのに、ほのかに甘い、やさしい匂いだ。
ぼんやり見あげたリイは、くしゃりと顔を歪めた。
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