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よろめいてないよ!
しおりを挟むちょっと熱い頬で、リイは並べられた茶筒から、レイティアルトの疲れ具合と体調を考えて、疲労回復、集中力向上の薬草茶を選ぶ。
光騎士の主な任務はお茶くみのはずなのに、レイティアルト付きのリイの任務はレイティアルトの警護、予定の把握、渦のような書の整理、関係機関との連絡、暗算暗算暗算そして暗算、暗算だ!
休む間もなく散々こき使われているのは間違いない。
だがリイより遥かに、レイティアルトは働いている。
眠る時間まで削って毎日奮闘するレイティアルトを労るため、本来の任務であるお茶くみ(……何かが違う)を遂行しようと、リイはレイティアルトのために厳選した茶筒を開けた。
「こちらはいかがでしょう」
香りを確かめてもらったら、レイティアルトは眉を顰めて首を振った。
「モルティガがいい」
南国の甘い香りのお茶を指定されたリイは、しょんぼりしながらうやうやしく頭を下げた。
「畏まりました」
お勧めしたお茶を飲んでくれたことがないのが、とっても残念だよ!
まあ、すんごい薬草の匂いするからね。明らかに苦マズそうだからね。
でもレイティアルトの身体のことを思って選んでるのになあ。
ちょっと拗ねつつ、リイはお茶を淹れる。
やさしい甘い香りが、執務室に満ちてゆく。
「こちらを召しあがってください」
差し出したランチボックスに、レイティアルトが首を傾げる。
「食堂の調理師さんに作ってもらいました。
野菜やお肉を挟んであるので栄養たっぷり、執務をしながら食べられますよ!」
箱を開けたレイティアルトの瞳がまるくなる。
ひとつ摘んだレイティアルトが、破顔した。
「うまい」
「でしょう。
調理師さんがレイティアルトさまのためならって頑張ってくれたんですよ」
「そうか」
微笑んだレイティアルトがもぐもぐ食べてくれるところを見ると、安心する。
「倒れないように、もりもり食べてくださいね」
眉をあげたレイティアルトは、ちいさく笑った。
白い陶器のなかで、茶葉が回る。
南国の甘い香りのモルティガの茶葉に最適な蒸らし時間を見極めたリイは、飾り気のない白いカップにお茶を注いだ。
レイティアルトは極限まで奢侈を厭う。
使う物も衣まですべてシンプルなものばかりだ。
「どうぞ」
「ああ」
香りを楽しんだレイティアルトが、白い陶器に唇をつける。
長い指がひらめき、伏せられた翠の瞳を長い睫が彩った。
伏し目がちなレイティアルトからダダ洩れる色気が凄い。
レイティアルトが視線を遣るだけで、流し目を送られたと卒倒するひめがいるという噂は、真実だと思う。
毎日見てるのに、毎日会心スチルのオンパレードとかどういうことですか!
時々拝みたくなるのを、必死で堪えている。
……あのカップになりたいと悶えるひめが多そうだなあ。
ほへえ、と呟きそうになったリイは、あわあわ口を噤んだ。
そっとレイティアルトの前に焼き菓子の皿を滑らせる。
忙し過ぎて、ゆっくり食べる時間さえないレイティアルトの食生活の悲惨さを少しでも改善できたらと焼いてもらった、野菜を練り込んだクッキーだ。
ちらりと白い皿の上のクッキーを見たレイティアルトは、さっと取ってカリカリ噛んだ。
両手で大判のクッキーを愛し気に持って、白い歯を立てるレイティアルトは、リスみたいで、めちゃくちゃ可愛い。
「──ぐ!」
あまりの愛らしさによろめきそうになって、あわあわ背を正した。
「…………甘党で悪かったな」
ほんのり赤い頬で、ぶすりと唇を尖らせるレイティアルトの唇の端に、クッキーの屑がついている。
ルフィスと闘える可愛さとか半端ない!
「……レイティアルトさま、かわいーですよね……」
しみじみ呟いたら、ぽんと赤くなったレイティアルトが叫んだ。
「可愛くない!!」
「はいはい、おかわりありますよ。
野菜を練り込んであるので多少は栄養があるはずです。
いっぱい食べてくださいね。倒れないように!」
お皿にクッキーを盛ると、翠の瞳を輝かせたレイティアルトがさっと両手に掴む。
こくこく頷いて、カリカリクッキーを齧るレイティアルトの笑みは、ご令嬢が見たら卒倒しそうな蕩ける甘さだった。
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