【完結】きみの騎士

  *  

文字の大きさ
上 下
91 / 152

よろめいてないよ!

しおりを挟む



 ちょっと熱い頬で、リイは並べられた茶筒から、レイティアルトの疲れ具合と体調を考えて、疲労回復、集中力向上の薬草茶を選ぶ。

 光騎士の主な任務はお茶くみのはずなのに、レイティアルト付きのリイの任務はレイティアルトの警護、予定の把握、渦のような書の整理、関係機関との連絡、暗算暗算暗算そして暗算、暗算だ!

 休む間もなく散々こき使われているのは間違いない。
 だがリイより遥かに、レイティアルトは働いている。

 眠る時間まで削って毎日奮闘するレイティアルトを労るため、本来の任務であるお茶くみ(……何かが違う)を遂行しようと、リイはレイティアルトのために厳選した茶筒を開けた。

「こちらはいかがでしょう」

 香りを確かめてもらったら、レイティアルトは眉を顰めて首を振った。

「モルティガがいい」

 南国の甘い香りのお茶を指定されたリイは、しょんぼりしながらうやうやしく頭を下げた。

「畏まりました」

 お勧めしたお茶を飲んでくれたことがないのが、とっても残念だよ!

 まあ、すんごい薬草の匂いするからね。明らかに苦マズそうだからね。
 でもレイティアルトの身体のことを思って選んでるのになあ。

 ちょっと拗ねつつ、リイはお茶を淹れる。
 やさしい甘い香りが、執務室に満ちてゆく。

「こちらを召しあがってください」

 差し出したランチボックスに、レイティアルトが首を傾げる。

「食堂の調理師さんに作ってもらいました。
 野菜やお肉を挟んであるので栄養たっぷり、執務をしながら食べられますよ!」

 箱を開けたレイティアルトの瞳がまるくなる。
 ひとつ摘んだレイティアルトが、破顔した。

「うまい」

「でしょう。
 調理師さんがレイティアルトさまのためならって頑張ってくれたんですよ」

「そうか」

 微笑んだレイティアルトがもぐもぐ食べてくれるところを見ると、安心する。

「倒れないように、もりもり食べてくださいね」

 眉をあげたレイティアルトは、ちいさく笑った。

 白い陶器のなかで、茶葉が回る。
 南国の甘い香りのモルティガの茶葉に最適な蒸らし時間を見極めたリイは、飾り気のない白いカップにお茶を注いだ。

 レイティアルトは極限まで奢侈を厭う。
 使う物も衣まですべてシンプルなものばかりだ。

「どうぞ」

「ああ」

 香りを楽しんだレイティアルトが、白い陶器に唇をつける。
 長い指がひらめき、伏せられた翠の瞳を長い睫が彩った。

 伏し目がちなレイティアルトからダダ洩れる色気が凄い。

 レイティアルトが視線を遣るだけで、流し目を送られたと卒倒するひめがいるという噂は、真実だと思う。

 毎日見てるのに、毎日会心スチルのオンパレードとかどういうことですか!

 時々拝みたくなるのを、必死で堪えている。
 ……あのカップになりたいと悶えるひめが多そうだなあ。

 ほへえ、と呟きそうになったリイは、あわあわ口を噤んだ。
 そっとレイティアルトの前に焼き菓子の皿を滑らせる。

 忙し過ぎて、ゆっくり食べる時間さえないレイティアルトの食生活の悲惨さを少しでも改善できたらと焼いてもらった、野菜を練り込んだクッキーだ。

 ちらりと白い皿の上のクッキーを見たレイティアルトは、さっと取ってカリカリ噛んだ。

 両手で大判のクッキーを愛し気に持って、白い歯を立てるレイティアルトは、リスみたいで、めちゃくちゃ可愛い。

「──ぐ!」

 あまりの愛らしさによろめきそうになって、あわあわ背を正した。

「…………甘党で悪かったな」

 ほんのり赤い頬で、ぶすりと唇を尖らせるレイティアルトの唇の端に、クッキーの屑がついている。

 ルフィスと闘える可愛さとか半端ない!

「……レイティアルトさま、かわいーですよね……」

 しみじみ呟いたら、ぽんと赤くなったレイティアルトが叫んだ。

「可愛くない!!」

「はいはい、おかわりありますよ。
 野菜を練り込んであるので多少は栄養があるはずです。
 いっぱい食べてくださいね。倒れないように!」

 お皿にクッキーを盛ると、翠の瞳を輝かせたレイティアルトがさっと両手に掴む。

 こくこく頷いて、カリカリクッキーを齧るレイティアルトの笑みは、ご令嬢が見たら卒倒しそうな蕩ける甘さだった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
『イケメン村で、癒しの時間!』 あやしさ満開の煽り文句にそそのかされて行ってみた秘境は、ほんとに物凄い美形ばっかりの村でした! おひめさま扱いに、わーわーきゃーきゃーしていたら、何かおかしい? 疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

処理中です...