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お楽しみだよ!
しおりを挟むメデュが手招いてくれる。
通された奥の部屋を占領するほどの巨大な魔道具が佇んでいた。
歯車がくるくる回り、嵌め込まれた魔石から零れる光が、あたりを虹に染めあげる。
中央には漆黒の硝子が嵌め込まれ、ちいさな光が命を待つかのように閃いた。
「すごい──!
これが、パソコン……?」
目を見開くリイを見つめたメデュは、こくりと頷く。
「小さくできなかった。
起動するのに全属性の凄まじい魔力を必要とする。
十年掛けて作ったのに『給料返せ』と怒られた」
しょんぼり肩を落とすメデュが、可哀想すぎる──!
頑張ったメデュは大丈夫だったと思うけど、レイサリア光国は不正があった場合はほんとに給料全額返納させるからな。
資産が足りない場合は借金になって、下水処理施設や鉱山で強制労働させられ延滞料金まで毟り取られる。
返さないで破産宣告とかできないんだよ。
取り立ては鬼だよ。
逃げようとしたら光騎士がドカンだよ。
不正に厳しいレイサリア光国!
になったのは、レイティアルト殿下の尽力の賜物らしい。
これで不正が減るといいな!
し、しかし、研究員として10年も既に頑張ったの?
メデュさん、めちゃくちゃかっこいーのですが、御年幾つなのでしょうか……
聞きたい気持ちを堪えたリイは、わくわくしながら巨大な魔道具を見あげる。
「書類スキャンして分類できますか?
保存は?
検索できますか?
緊急性を判断してアラートつけたり、スキャンした書類を自動で検算してくれたりしませんか?」
桔梗の瞳が見開かれて止まる。
「……使う気か?」
リイは拳を握る。
「レイティアルトさまは、レイサリアの血を継ぐ御方!
全属性で、魔力はレイサリア光国一!
しかも激務過ぎて魔力を使うところがないので、使い放題です!
………………たぶん」
てへ、と笑った。
しばらく黙ったメデュは、呟いた。
「…………すごい……と……思って……くれ、た?」
リイはぶんぶん頷いた。
「めちゃくちゃ凄いです!
もしパソコンを超える機能、スキャンして全自動で緊急性を判断して検算してくれて分類して保存してくれて検索ができて、過去百年の収支報告とか気候変動とか税率調整とかガウンガウン計算してくれたら、レイティアルト殿下の激務が、ふつうの執務になります!」
リイがメデュの大きな手を握る。
骨ばった手は細やかな作業が得意そうな、きれいなラインを描いた。
「レイティアルト殿下のために、レイサリア光国の民のために、あと俺の頭が暗算で燃え尽きないために、光国を支える魔道具を造ってください!」
垂直に頭を下げた。
しばらく黙ったメデュが、リイの手を握りかえす。
「……愚かだと、狂っていると言わないでくれたのは、きみだけだ」
ちいさな声だった。
「リイの頭が暗算で破裂しないためなら、がんばる」
薄い唇がほのかな笑みを浮かべる。
「うわあん!
ありがとうございます!」
膝につくほど、頭をさげた。
魔石の虹の光が、まだ目のなかに宿る気がする。
スキップしながら王太子執務室の扉を開けたら
「働け!」
紙の嶺の向こうで、レイティアルトの指だけが見えた。
「殿下、もしかしてもしかしたら、うふふふふですよ!
もうちょっと頑張りましょうね!」
にこにこして諸手を挙げたら、レイティアルトが凛々しい眉をあげる。
「…………なんだ?」
「お楽しみです!」
胸を張った。
深い翠の瞳をやわらかに細めて、レイティアルトが笑う。
「リイは楽しい」
「よかった。
ご飯食べてないでしょう。ちょっとお茶を淹れましょう。
休んでくださいね。
1刻働いたら少し休憩、これが集中力を保つ秘訣です」
胸を張るリイに、レイティアルトは目頭を揉んだ。
「……俺に休めというのも、レミリアとザインとリイだけだな」
「働き過ぎると死ぬんですよ!
め!」
腰に手をあてたら、レイティアルトが吹き出して笑う。
「茶を淹れてくれ」
飾らない、やわらかな笑みは、光輝くようなスチルです!
応援ありがとうございます!
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