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どらきゅらさん?
しおりを挟む闇の部屋の最奥で腰かける人は、青白い。
レイティアルトが頭脳明晰さもさることながら剣をとり闘えるかっこよさの頂点にいるとするなら、この人は研究において最高の能力を発揮するかっこよさの頂点にいそうだ。
………………。
偏屈なご老体じゃなかったの?
いやいやいや、お留守番かもしれないからね!
「あ、あの、素晴らしい計算機があると聞いて伺いました。
新人光騎士のリイと申します」
左手を胸にあて、光騎士の敬礼をしたリイに、桔梗の瞳が瞬いた。
「……?」
首を傾げる人の紫紺の髪が、さらさら揺れる。
………………無言だ。
ミナエのばあちゃんとじいちゃんを思い出したリイは、懐かしさに滲む涙を隠すように頷いた。
無言な人の応対には慣れている!
大体、何を言いたいのか解るよ!
「ええと、膨大な収支報告書の検算をしたいのです。
できれば、レイティアルト殿下に集中する海のような書を分類して演算して、保存して検索できる、パソコンみたいな魔道具が欲しいです!」
拳を握った。
「…………パソコン」
低く掠れる、ちいさな声に、こくこく頷く。
「レイティアルト殿下の激務軽減に、是非ご協力をお願いしたい!」
垂直に頭をさげるリイのつむじを見つめたドラキュラっぽい人は、立ちあがるとちいさな魔道具のボタンを押した。
キュアァアアア────!
展開する魔法に、リイが目を見開く。
「防音の魔道具だ」
静かな、低い声だった。
桔梗の瞳が、リイを射る。
「……転生者か」
呟きに、目を剥いた。
「あ、あなたも転生者ですか!」
目がきらきらしたと思うリイに、紫紺の眉が吊りあがる。
「なぜ喜ぶ」
「この世界が何の乙女ゲームの世界かご存知ありませんか!」
絶対、乙女ゲームだと思う!
レイティアルトが、凄まじく麗しいスチルだから!
コルタが間違いなく美少年枠だから!
王宮にいる皆の顔面偏差値が異様に高いから!
ドラキュラさんも、めちゃくちゃかっこいーから!
……ヒロインが平民の少女だとすると、もしかしてレミリアさまは悪役令嬢……?
いやいやいやまさかそんな!
でもレミリアさまがヒロインならゲームが始まった時点で終了なくらいのチートじゃない??
何のゲームなのか、とても知りたい!!
前のめりに聞いたリイに、ドラキュラさんは桔梗の瞳を瞬いた。
「…………おとめげーむ……?」
「はい!
ぴんくの髪の平民の女の子が、王侯貴族のすんばらしいイケメンたちときゃっきゃうふふして、逆ハーレムを形成したりするゲームです!」
拳を握った。
「……………………」
物凄く、うさんくさそうに見られたよ!
「え、えと、何かのオンライン小説だったり、映画だったり、ドラマだったりとかは?」
前世は確かオンライン小説を貪るように読んでて、映画とかドラマとかテレビとか全然見なかったみたいだから解らない。
最も自信のあるジャンルはオンライン小説だけど、すべてを網羅するとか、時間がいくらあっても足りないよね!
しばらく黙ったドラキュラさんは、首を振った。
──……元ネタ何なのか解るかと思ったのに、甘かったみたいです……
でも、初めて逢えた転生者みたいだよ!
「……え、ええと、じゃあ、あの、俺、日本出身みたいなのですが、ドラキュラさんのご出身は?」
薄い唇が、ぶすりと尖った。
「…………ドラキュラではない」
「た、たたた大変失礼しました!
私は光騎士のリイと申します。
あなたのご芳名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
ちょっと黙ったドラキュラさんは、呟いた。
「…………メデュ」
「メデュさんは、どちらの国のご出身で?」
リイの言葉に、目を瞬いたメデュは、首を振った。
「…………わから、ない。
だが、おかしな記憶が、ある。
魔法のない、機械の世界。
確かにその世界で、生きて死んだと思う。
……口にすれば、頭がおかしいと思われた。
あの世界のものを作ろうとしたら、狂人だとののしられた」
ちいさな声が、かすれた。
「メデュさんはおかしくないです!
俺にも機械の世界の記憶があります!」
思いきり叫んだ。
桔梗の瞳が見開かれて、揺れる。
リイは思わず、メデュの手を握った。
「パソコンを作ってくださったんですか?」
目がきらきらしてたと思う。
ほんのり眦を朱く染めたメデュは、こくりと頷いた。
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