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ご飯だよ!
しおりを挟むリイは唇を噛んだ。
「レイティアルトさまは、正しい。真っ直ぐです。
こんなに民を想い、働かれているレイティアルトさまを更に激務に落としたうえに、レイティアルトさまが批判されてしまうなんて……」
俯くリイに、レイティアルトはちいさく笑った。
「俺を案じてくれるのは、レミリアとザイン、リイだけだな」
「……は!?」
仰け反るリイに、レイティアルトの深い翠の瞳がひらめいた。
「氷の王太子だそうだ。
俺が王になることを、貴族諸侯は恐れている。
最高位の珠爵だろうと、容赦なく取り潰すからな」
喉を鳴らして笑うレイティアルトに、リイも笑う。
「今も取り潰してるんだから、変わりませんよ」
今回の水増し請求では、甘い汁を吸っていた貴族たちが軒並み爵位を落とした。
最高位の貴族として威張り腐っていたドノバ珠爵は、あまりに巨額の不正が露見し過ぎたために降爵ではなく、貴族位を剥奪され平民落ち、家は取り潰しとなった。
領地は国に返納され、レイティアルトが全権を担うので全く問題がないどころか、民の暮らしは飛躍的に向上するという。
最高位の珠爵さえ、潰される。
貴族たちは震撼した。
レイティアルトにおもねろうと賄賂を贈ろうとした者まで、捕縛され降爵されてしまうのだから、貴族たちは恐れ戦いて小さくなっている。
真面目に執務に励む者が評価され、爵位を笠に着て仕事もせずにでかい顔をする者たちは容赦なく爵位を落とされ、罷免される。
千年続いたレイサリアが変わる、激震のなかにいるのは間違いなかった。
「俺の父は政務がからきしだし、母も興味がないらしい。
8歳の頃から俺が光国を見ていたが、いかんせん8歳に発言力はない。
だがやっと成人、王となれる18になった。
思う存分、国を弄れる」
輝く翠の瞳に、息をのむ。
「思いきり働かせてやる」
にやりと笑う、刻まれた黒い隈さえかっこいいレイティアルトに、引き攣った。
────休憩だ!
やっと休憩、ご飯だよ!
涙目で衛士騎士食堂に辿りついたリイが手を挙げる。
「今日の定食はありますか!」
白い衣に身を包んだ壮年の調理師は首を振った。
「終わっちまったよ、リイ。
でも頼まれたもんは作っておいたぜ!」
白い歯を輝かせて調理師が笑ってくれる。
「わあ! ありがとう!」
リイが受け取ったのは、サンドウィッチのランチボックスと野菜を練り込んだクッキーだ。
お昼ご飯を食べる隙間を捻出しなくてはならないリイよりも、レイティアルトは働いている。
ゆっくりご飯を食べる時間さえない。
執務の合間に摘めるものを、とパンに野菜や肉を挟んでくれと言ったら、目を丸くした調理師はレイティアルトさまのためならと快く引き受けてくれた。
サンドウィッチ伯爵いないからね。
この世界では一般的じゃなかったみたいだよ。
カードゲームじゃなくて執務をしてるんだから、レイティアルト偉い!
お茶請けでも栄養をとって貰おうと、甘い焼き菓子に野菜のペーストを練り込んでくれと言ったら仰け反られたが、調理師魂に火が点いたらしく、こちらも喜んで作ってくれた。
レイティアルトが気に入ってくれたらいいな!
しかし、今日の定食は売り切れだ。
料理人の心意気を感じる毎日の定食を楽しみにしていたリイの肩が落ちるのに、調理師も肩を落とした。
「残ってんのは肉汁ご飯だな」
この異世界、米もあるんだよ。
最高だよ!
「作ってくれるの、何でも美味しいから楽しみ!」
リイが笑うと、調理師の顔が赤くなる。
「お、おう。
俺にまでキラキラしなくていいんだぞ、リイ」
もじもじした調理師は、リイのお盆に焼き菓子を載せてくれた。
「……おまけだ」
「わー! ありがとー!」
破顔するリイに、更に赤くなった調理師は、肉汁を山盛りにしてくれた。
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