【完結】きみの騎士

  *  

文字の大きさ
上 下
82 / 152

選ばれる者

しおりを挟む



 議長の咳払いの後、低い声が議会殿を渡る。

「緋爵ゼイエル殿、緋爵イゲナ殿、緋爵ダンセ殿、緋爵ゲオス殿、緋爵ゾルボ殿──……」

 千年の歴史を誇る光国議会殿が、ざわめいた。

「ほえ?」

 口を開けたリイは、あわてて閉じる。

 延々続く読みあげの名に、十層にまで居並ぶ貴族も光騎士も、瞠目した。
 議長は幾度も水を飲み、朗々たる声を響かせる。

「……ひめのいる貴族が軒並みリイを指名してるな……」

「いないのも、いっぱいいますよ……」

「お爺さんまで、リイ狙いか──!」

 囁く光騎士たちの目が、によによの三日月形だ。

「珠爵リザイ殿、珠爵ログス殿──……」

 珠爵まで来た! もう終わりだ!

 誰もが期待したその時、議長は歌うようにその名を読みあげた。


「レイサリア光国王女殿下、レミリア・レファーリア・レイサリア様」


 氷の静謐が降りた。


 …………レミリアさまが、俺を、指名なさった…………?


 レミリアは王侯貴族の頂点だ。
 誰もレミリアには敵わない。

 指名した者が大勢いた場合、最高位の者がその騎士を得る。


 ……ルフィスの騎士には、まだなれないけれど。

 花のきみの、光騎士に……?


 驚愕に固まるリイの耳に、厳かな声が響く。


「レイサリア光国王太子殿下、レイティアルト・レフィリアス・レイサリア様」


 どよめきが、波を打つ。

 王陛下は長のご病気で臥せっておられ、光国の実権はレイティアルト王太子殿下が掌握しておられる。

 光国の揺るぎなき王となられる方に新人が指名されるなど、陽が北から昇る事態だ。

 どうしてそんな指名がなされたのか、理由も明白だった。

 醜聞を曝したレミリアが、リイを光騎士に選ばないよう阻止できるのは、レイティアルト王太子殿下だけだ。


「光騎士リイは、レイティアルト王太子殿下付きとなる!」

 いかめしい声が、騒然たる議会を渡る。


 あんぐり開けてしまった口を、懸命に閉じた。







「あんまりだわ、兄さま!
 こんな意地悪しなくていいじゃない!」

 レミリアの拳で叩かれた飴色の机が震え、積みあげられた書が揺れた。
 王太子執務室は憤激のレミリアの襲来を受け、燈火さえ光を弱めたようだ。

 いちおうレイティアルトさま付きとなったリイは王太子執務室に出仕早々、妹と兄のびっくりな諍いに仰け反る。

 レイティアルトは激おこらしいレミリアを、氷の瞳で射抜いた。

「リイをレミリア付きにしてみろ。
 醜聞は爆発どころか、身籠るだろう!」

 指されたレミリアは、噴火した。

「そ、そそそそんなこと妹に絶叫する?」

「させてるのはお前だ!
 認められないなら子を作って認めさせればいいと思うんだろう。
 お前の魂胆は丸バレだ!」

 星の海の瞳を見開いたレミリアは、舌打ちした。


 え、舌打ち……?

 は、花のきみが、し、舌打ち……?

 し、しししかも、ななな内容がががが────!!


「れ、れれれレミリアさま……?」

 燃える頬で口を開けるリイに、レイティアルトが嘆息する。

「頼むからレミリアには手を出すな」

 星の海の瞳が吊りあがる。


「レミリアは、リイのものなの!」


 あんぐり開きそうな口を、わたわた閉じた頬が燃えた。


「もう身籠ったのか!」

「し、ししししてないわよ!
 そ、そそそんなの乙女に叫ばないで!」

 蒼白なレイティアルトと真っ赤なレミリアに、湯気を吹いたリイが轟沈する。

 で、でででできません!!!


「とにかく! リイは俺付きとなった。
 レミリアは頭を冷やせ。
 光騎士とつきあうなら巧いやり方があるだろう。公にするな」

 花の頬が、ふくれる。

「公にしたかったの!」

 レイティアルトが嘆息する。

「控えろ。
 レミリアはレイサリアの権威を背負って立つ、千年光国が王女だ」

 うつむいて、小さく頷くレミリアの金の髪を撫でて、レイティアルトは微笑んだ。


「よろしい」

 レミリアに見せた笑みとは別人の氷の瞳で、レイティアルトはリイを睥睨した。


「レミリアをこんなにした罰だ。
 散々こき使ってやる。
 覚悟しろ!」

 薄い笑みを浮かべるレイティアルトは、千年光国レイサリアを一身に背負う、揺るぎなき次期王陛下だ。

 その目に射抜かれたリイは、覚悟を決めた。


「は!」





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

溺愛の始まりは魔眼でした。騎士団事務員の貧乏令嬢、片想いの騎士団長と婚約?!

恋愛
 男爵令嬢ミナは実家が貧乏で騎士団の事務員と騎士団寮の炊事洗濯を掛け持ちして働いていた。ミナは騎士団長オレンに片想いしている。バレないようにしつつ長年真面目に働きオレンの信頼も得、休憩のお茶まで一緒にするようになった。  ある日、謎の香料を口にしてミナは魔法が宿る眼、魔眼に目覚める。魔眼のスキルは、筋肉のステータスが見え、良い筋肉が目の前にあると相手の服が破けてしまうものだった。ミナは無類の筋肉好きで、筋肉が近くで見られる騎士団は彼女にとっては天職だ。魔眼のせいでクビにされるわけにはいかない。なのにオレンの服をびりびりに破いてしまい魔眼のスキルを話さなければいけない状況になった。  全てを話すと、オレンはミナと協力して魔眼を治そうと提案する。対処法で筋肉を見たり触ったりすることから始まった。ミナが長い間封印していた絵描きの趣味も魔眼対策で復活し、よりオレンとの時間が増えていく。片想いがバレないようにするも何故か魔眼がバレてからオレンが好意的で距離も近くなり甘やかされてばかりでミナは戸惑う。別の日には我慢しすぎて自分の服を魔眼で破り真っ裸になった所をオレンに見られ彼は責任を取るとまで言いだして?! ※結構ふざけたラブコメです。 恋愛が苦手な女性シリーズ、前作と同じ世界線で描かれた2作品目です(続きものではなく単品で読めます)。今回は無自覚系恋愛苦手女性。 ヒロインによる一人称視点。全56話、一話あたり概ね1000~2000字程度で公開。 前々作「訳あり女装夫は契約結婚した副業男装妻の推し」前作「身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~」と同じ時代・世界です。 ※小説家になろう、ノベルアップ+にも投稿しています。※R15は保険です。

転生したら避けてきた攻略対象にすでにロックオンされていました

みなみ抄花
恋愛
睦見 香桜(むつみ かお)は今年で19歳。 日本で普通に生まれ日本で育った少し田舎の町の娘であったが、都内の大学に無事合格し春からは学生寮で新生活がスタートするはず、だった。 引越しの前日、生まれ育った町を離れることに、少し名残惜しさを感じた香桜は、子どもの頃によく遊んだ川まで一人で歩いていた。 そこで子犬が溺れているのが目に入り、助けるためいきなり川に飛び込んでしまう。 香桜は必死の力で子犬を岸にあげるも、そこで力尽きてしまい……

【完結】非モテアラサーですが、あやかしには溺愛されるようです

  *  
キャラ文芸
『イケメン村で、癒しの時間!』 あやしさ満開の煽り文句にそそのかされて行ってみた秘境は、ほんとに物凄い美形ばっかりの村でした! おひめさま扱いに、わーわーきゃーきゃーしていたら、何かおかしい? 疲れ果てた非モテアラサーが、あやかしたちに癒されて、甘やかされて、溺愛されるお話です。

拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!

枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」 そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。 「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」 「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」  外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

「白い結婚最高!」と喜んでいたのに、花の香りを纏った美形旦那様がなぜか私を溺愛してくる【完結】

清澄 セイ
恋愛
フィリア・マグシフォンは子爵令嬢らしからぬのんびりやの自由人。自然の中でぐうたらすることと、美味しいものを食べることが大好きな恋を知らないお子様。 そんな彼女も18歳となり、強烈な母親に婚約相手を選べと毎日のようにせっつかれるが、選び方など分からない。 「どちらにしようかな、天の神様の言う通り。はい、決めた!」 こんな具合に決めた相手が、なんと偶然にもフィリアより先に結婚の申し込みをしてきたのだ。相手は王都から遠く離れた場所に膨大な領地を有する辺境伯の一人息子で、顔を合わせる前からフィリアに「これは白い結婚だ」と失礼な手紙を送りつけてくる癖者。 けれど、彼女にとってはこの上ない条件の相手だった。 「白い結婚?王都から離れた田舎?全部全部、最高だわ!」 夫となるオズベルトにはある秘密があり、それゆえ女性不信で態度も酷い。しかも彼は「結婚相手はサイコロで適当に決めただけ」と、面と向かってフィリアに言い放つが。 「まぁ、偶然!私も、そんな感じで選びました!」 彼女には、まったく通用しなかった。 「なぁ、フィリア。僕は君をもっと知りたいと……」 「好きなお肉の種類ですか?やっぱり牛でしょうか!」 「い、いや。そうではなく……」 呆気なくフィリアに初恋(?)をしてしまった拗らせ男は、鈍感な妻に不器用ながらも愛を伝えるが、彼女はそんなことは夢にも思わず。 ──旦那様が真実の愛を見つけたらさくっと離婚すればいい。それまでは田舎ライフをエンジョイするのよ! と、呑気に蟻の巣をつついて暮らしているのだった。 ※他サイトにも掲載中。

処理中です...