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いかづち
しおりを挟む「レイサリアには不思議な魔術がたくさんあるの。
もう誰も使えなくなった強大な魔術が、レイサリアには脈々と息づいてる。
千年以上も魔術の研鑽に励み、鍛えあげてきたの」
レミリアの身体を白銀の光の粒が取り巻いて、輝いた。
レイサリア光国の建国の祖、光星レイサリア、すべての地を平らげたと謳われる凄まじい魔術士の血を受け継ぐレミリアを護るように、銀の光が立ち昇る。
「他国の騎士が決して真似できない、魔撃を防ぎ、魔撃を行えるレイサリアの騎士が、光騎士よ。
至光騎士戦で優勝した者には、魔術を受け継ぐ資質がある。
なくても引き出せるのが千年光国レイサリアの力よ。
見習いに降格しても、大丈夫!」
レミリアの花の笑顔に、リイは項垂れる。
「──……早く使えるようになりたいです。できれば、一週間後に」
はるかな高望みに、レミリアは細い指を腰にあてた。
「じゃあ、特訓しましょう!
明日から、夜明けに鍛錬用闘技場に来てね。
教えてあげる!」
胸を叩いてくれるレミリアに、わたわた慌てた。
「あ、あの、分不相応な願望を申しあげましたが、レミリアさまの著しい御負担では──」
「リイのためにできることがあるなんて、うれしい。
魔撃試験に使う光剣を持って来てね。雷精を封印してあげる。
リイを護ってくれるわ」
かがやく朱い頬で、笑ってくれる。
「ありがとうございます……!」
深くこうべを垂れたリイの髪を、レミリアの細い指が撫でてくれた。
一番情けないところばかり見せるのに、あなたは、笑ってくれる。
いつも導いて、たすけてくれる。
…………なのに、あなたを、あざむいている。
『俺は、女です』
言えない唇を、噛み締めた。
夏の終わりの曙、やわらかな朱に染まる闘技場を、まだ涼やかな大気が満たした。
白茶の乾いた土に覆われた光騎士鍛錬用闘技場には、リイとレミリアと鳥だけだ。
ほの暗い西の空で、残る月が輝いた。
リイは緊張にこわばる指で、ザインから賜った光剣を掲げる。
鈴の声が、鳥の歌と朝を渡った。
「わらわレミリア・レファーリア・レイサリア。
レイサリアの血を継ぐ者!」
魔術の紋様を描く指先が、銀に輝く。
華奢な身体からあふれゆく魔力に、強固なはずの闘技場の耐魔壁が震えた。
金の髪が銀へと染まり、波うつように舞いあがる。
レミリアの鼓動に合わせるように、銀の魔紋が明滅した。
「我が名と我が血の盟約により、来たれ雷精。
光騎士リイの光剣に宿り、主の力となれ!」
細い指先に、銀の魔力が凝集する。
ひときわ烈しい光を放つ魔紋から、背が震えるほどの魔力が噴きあがる。
世界から、音が消えた。
舞いあがる金糸の髪が白銀に輝き、燃えあがる星の海の瞳が銀に染まる。
「メテルギアス・ガイゼリオン!」
轟く雷撃が、天を裂く。
噴きあがる爆風と、目を射る閃光、荒れ狂う衝撃に、大地が吹き飛んだ。
光の帯が、リイが掲げる光剣にくだる。
歯を食い縛り、懸命に踏ん張っても、土煙を立てて足が下がる。
雷撃に貫かれるような衝撃が、爪先まで駆け抜ける。
渾身の両の手で握りしめた柄の向こうで、いかづちを吸いこんだ白銀の刃がきらめいた。
吹きかえす爆風に、つややかな金に戻ったレミリアの長い髪が揺れる。
星も霞む花のひめから迸る、天を裂く魔術に、息をのむ。
さまよう星の海の瞳が、地に落ちた。
「…………がっかり、した?」
こぼれた言葉に驚いたリイは、首を振る。
「感動しました」
憧れをのせた瞳で、笑う。
星の海の瞳が、リイの目に嘘がないか確かめるように覗き込んだ。
まだ痺れたままのリイの手が、レミリアの魔力の指を包み込む。
「レミリアさまは、輝ける星のきみです。
……俺は、かっこわるいところばかり見せるけど──」
「そんなことない!」
首を振ったレミリアは、リイのごつごつの手をちいさな手で包んだ。
「リイが弱いところを見せてくれると、何だか安心するの。
完璧な人なんていないんだなって」
紅い眦で、レミリアが笑ってくれる。
「……俺は、欠陥だらけです」
見開かれた星の瞳が、やさしくひらめく。
「私だけの秘密ね」
つながる指で、笑ってくれた。
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