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はずかしい告白
しおりを挟む晩夏にも咲き誇るセレネの香りも、リイの衝撃を癒してくれない。
「リイ、元気ない? どうしたの?」
顔を覗き込んでくれるレミリアに、リイは目を伏せた。
まだ強い昼の陽射しを遮る白い傘を、レミリアへと差しかける。
『魔撃ができないんです』と言いかけたリイは、言葉を呑み込んだ。
――ルフィスのことを聞くなら今かもしれない!
決意したリイは、唇を開いた。
「あの、レミリアさま、ルフィスのことを捜してくださるとのお言葉でしたが、何か情報はございますか……?」
そうっと聞いたリイに、レミリアはぶすりと膨れる。
「ない。
偽名かもしれないわ。
こんなに捜しても捜してもいないだなんて!」
ぷりぷりするレミリアに、目を瞠る。
…………ルフィスが、偽名…………?
今までのことは、全部、徒労だった……?
茫然としたリイは思い出す。
ミナエに来た騎士は、確か『ルフィス様』と呼んでいた。
たぶん、ルフィスはルフィスだと思う。
でももしかしたら、愛称や略称、秘密の名前だったのかもしれない。
ルフィスの名が違っていたら、捜しても捜しても、いる筈がない。
まさかと思う気持ちと、捜しても捜してもいないルフィスにへしゃげるリイに、レミリアは目を伏せた。
「……名が違っていたとしても、亜麻色の髪に、碧と蒼にきらめく瞳はとても目立つ。
隠し子だとしても、噂は密やかに流れるものよ。
それなのに、そんな貴族の話を聞いたことがないの。
レイサリア光国と属国には、いないかもしれない」
ちいさな声に、息をのむ。
レミリアは光国貴族を恐ろしいほどよく知っている。
そのレミリアが捜しても見つからないなら、ルフィスは…………
真っ白になるリイの頬に、レミリアの花の指がふれる。
「元気がなかったのは……ルフィスのこと?」
きゅ、と悔しそうに唇を噛むレミリアに、リイは衝撃に忘却しそうになった魔撃試験のことを思い出した。
まだルフィスが光国や属国にいないと決まった訳じゃない。
正式に光騎士となったら、話してくれる貴族も出てくるかもしれない。
希望に縋るように、リイは絶望に染まりそうな頭を振った。
字が読めなかったことも、無知だったことも、レミリアは知っている。
知っても嗤わずに、リイに一から教えてくれた。
あなたに己を繕いたくない。
リイは重い口を開いた。
「たまに蝋燭に火がつくようになっただけで、俺にとっては大成功なんです。
魔撃の攻防なんて、とても。
……光騎士見習いに、降格だそうです」
瞬いた星の海の瞳が、リイの瞳の奥を覗き込む。
「リイ、炎を使ってるの?」
「誰にでも一番使いやすい、初心者向けの魔術だからきっとできると。
でも全然できなくて――……」
コルタもキールも、によによ笑いながら、真面目に教えてくれている。
それはちゃんと伝わるし、教えてくれる以上に頑張っている。
イメージだってゲームの素晴らしいエフェクトと効果音入りで想像してるのに全然だめとか、ほんとに残念な異世界転生!
肩を落とすリイに、レミリアは微笑んだ。
「リイは、雷撃に向いてる。いかづちを使うの。
教えてあげる!」
「……え? レミリアさまが?」
首を傾げたリイに、レミリアの頬がぷくりと膨れた。
「私のこと、侮ったでしょう!」
あわあわしたリイは、首をふる。
「まさか!
花のレミリアさまが攻撃魔術だなんて、あまりに――……不思議で」
拳を握るレミリアに、リイは懸命に言葉を選んだ。
小首を傾げたレミリアは、拳を解いて細い指を掲げる。
……ぎりぎり合格?
「わらわは千年光国レイサリアが王女、レイサリアの血を継ぐ者」
銀にきらめく風が、レミリアの金糸の髪を舞いあげる。
目を瞠るリイに、レミリアは笑った。
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