きみの騎士

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おひめさまに、ごあいさつ

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「え?」

「リイのいじわる!」

 あでやかな金の髪が、跳ねあがる。

 きょとんとしたリイは、笑う。

「では、文字を教えてくださいますか?」

「…………他のは、だめ」

 のばされた細い指が、リイの指をつかまえる。
 つながる指先が、あまやかに絡みゆく。

 きらきらの星の海の瞳に息をのむ。


 …………ルフィス…………

 面影を重ねることは、いけないことだと解ってる。

 でも、この手が繋がる先が、ルフィスだったらいいのに。
 隣で笑ってくれるのが、ルフィスだったらいいのに。

 思ってしまう気持ちを払うように、首を振る。

 リイの指を握ったレミリアは、一瞬で吊りあがる星の海の瞳で、リイを睨みつけた。

「他のひめに色目を使ったら、怒る!」

 目を見開いたリイが、笑う。

「笑いごとじゃないの!」

 星の海の瞳が切れあがるのが、可愛らしくて。
 ありえない心配をなさるおひめさまに、顔が笑ってしまう。

「リイのいじわる!」

 真っ赤な頬で叫ぶ花のきみと繋がる指は、ほどけない。






 外套の白が舞う。
 初夏の陽に、胸を彩る銀の飾緒がきらめいた。

 輝ける白銀の星と金のセレネの花で彩られた広大な水晶の間、レイサリア光国が誇る舞踏殿は、詰めかけた貴族とひめさまたちで溢れ返る。

 その中央で、やわらかに膝を折り、左手を胸に当て、リイが敬礼する。

「ミナエより参りました、光騎士リイにございます」

 結わえた黒髪が背に流れ、リイは静かに顔をあげた。

「きゃあ――――!」

 穏やかな昼下がりに響きわたる歓声に、光国議会の重鎮たちは渋い顔だ。

「ロエナ様まで列席をご希望になられた所以は、これか」

「光騎士は武技のみを競います。
 容色は考慮されませぬゆえ、余計かと」

「平民あがりで、この顔、さらに最年少とは」

「頭が痛いですな」

 さざなみのように広間を伝う低い声に、リイは眉をあげた。

「なんか酷いこと言われてる!
 皆、イケオジなのに!」

 憤慨するリイに、隣の光騎士たちが目をまるくして、コルタが吹き出して笑う。

「リイがそう言ってくれたら、皆よろこぶよ」

 ちょっと赤い顔で、光騎士たちがうんうん頷いた。

「気にしないで、リイ。
 重鎮っていうのは文句を垂れる商売だから」

 胡桃の瞳で、コルタが隣で笑ってくれる。


 王女殿下ロエナ様が列席をご希望なさったと伺って、いちばん驚いたのはリイだった。

 最高位の貴族令嬢並みの扱いとはいえ、王女殿下だ。
 貴族のひめとは、格が違う。

 控えてくださるよう重鎮たちは重ねて進言したが、ロエナ様は聞き入れられなかったという。

 誰より仰け反ったのはリイだし、キールは犬歯を剥いて拳を振り回した。

「絶対絶対絶対絶対!! ロエナ様はダメだからなぁあああアアア――――!!」

「ありえないから。
 そんなに心配しなくて大丈夫」

 ぽふぽふキールの肩を叩いたリイに、キールはこくこく頷いた。
 涙目のキールは、でかい身体と相まって、とても可愛かった。

「ちょっとぐらっとした」

 笑うリイに、キールが引き攣る。

「やめてくれ!!
 リイは冗談でも、俺が本気になるから!!」

 泣きだしそうな真っ赤なキールは、大変可愛かった。

 ちょっとぐらっとした。
 ルフィスには内緒ね!


 そういう訳で、最初にご挨拶申しあげるのは、最も身分の高いロエナ様だ。

「ミナエより参りました、ゼトが子、リイにございます。
 第二五七八回、至光騎士戦で優勝し、光騎士の称号を賜りました。
 ロエナ王女殿下にご挨拶申しあげます。
 王女殿下のお傍近くお仕えすることをお許しくださいませ」

 膝をつき許しを乞うリイにロエナは、やわらかに微笑んだ。 

「ゆるします」

 たおやかな指がリイの髪へと伸ばされて、あわてたように握り込まれる。

「……あの、至光騎士戦を見ました。
 すばらしい腕で……髪は大丈夫でしたか?」

 ……………………。

 …………切られた髪より血を吐きましたが、見えませんでしたかロエナ様…………

 う、うん。
 角度とかあるしね。
 髪のほうが派手に散ったかもね。

 納得したリイは微笑んだ。

「短くなりました。
 身にあまるお言葉、親族一同の誉にございます」

 指をあげてくれるのを気配でとらえたリイは、敬礼を解き顔をあげた。




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