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燃やすな、危険!
しおりを挟む「ではまず魔撃の基本から。基本中の基本、炎の魔撃を鍛練する!」
「は、はい!」
何をするのかな、とどきどきとわくわくでいっぱいの顔で見あげたら、ザインが鋼の瞳を吊りあげる。
「だから、その顔を止めろ!
血迷ったらどうする気だ!」
叫ばれた。
「団長、あの、理不尽な叱責が多いような気がするんですが……」
手を挙げてみた。
「鏡を見ろ!!」
絶叫された。
「毎日、歯に肉が挟まっていないか確認しています!」
鍛錬していた光騎士たちが爆笑して、お腹を抱えて笑ったコルタが、ぽふぽふリイの肩を叩いた。
「うん、もうちょっと他のところも見ようね、リイ」
「……目と鼻と、よだれのあとも確認するよ」
こそっと告げたら、ひーひー笑ったコルタが倒れた。
解せぬ!
「よし、ではリイ、そこに立て」
「はい!」
前に立つと、ザインはにやりと唇の端をあげた。
「炎の魔撃を受ける訓練だ」
ゴオォオァアアオオオ――――!!
ザインの掌から炎が噴きあがる。
「すごい、魔法だ!!」
飛び跳ねて喜びそうになったリイは、自分の状況を思い出した。
「……もしかして、それ、俺に当てる気ですか……」
「よく解ったな。
魔撃は慣れだ。受けてみよ!」
「ぎゃあぁああ!!」
平服を着て来いって、これ!?
焼き払う気なら支給してくれないと、これしか服がないのにぃいい!
あわあわしたリイは、凄まじい熱と火の粉で襲い来る炎の弾を、紙一重で躱す。
ザインは鋼の瞳を点にした。
「………………避けた……?」
「あ、当たり前でしょう!!
全力で避けます!!」
拳を握って叫んだら、ザインが凛々しい眉を顰める。
「当たって、熱さと痛さを感じて欲しかったんだが」
「いやいやいや、丸焼けだから!
死ぬから!!」
隣でコルタが肩を揺らして笑ってる。
「じゃあちょっと本気出していくか。
避けるなよ」
「よ、避けるに決まってるでしょぉおおお――――!!」
次々と襲い来る炎の弾や柱や竜巻を、逃げ回りながら必死で避ける。
じいちゃんの見えない拳や蹴りを避け続けた甲斐があったよ!
魔法が来る方向や当たりそうな場所が何となくわかる!
しかしギリッギリで躱しているのに、すぐ傍で燃え盛る炎のあまりの熱に、硫黄の匂いがした。
チリチリ音をたてて、ルフィスのために伸ばした髪が丸まった。
やめて――!!
ふきつ――――!!
「うわあん! 焦げたぁああ!」
「…………当たらないな……」
首を傾げたザインが指をひらめかせる。
「いやいやいや本気であてないでください!!
服これしかないですぅううう――――!!」
涙目のリイは逃げ続け、ザインは不思議そうに炎撃を撃ち続けた。
めちゃくちゃ武力一辺倒っぽい外見で、こんなに魔撃が撃てるとか団長すごい!
じゃなくて、俺の服と髪がぁあああ――――!!
「ふつう、魔法って、撃ったら当たるよな?」
首を傾げるザインに、コルタは頷く。
「リイですから」
光騎士一同が納得したように頷いた。
え、魔法を避けられるって、ふつうじゃないの?
いや、ふつうじゃない方がうれしいな!
服、ほんとにこれしかないです!
涙目のリイに、炎の弾は当たりませんでした!
やた!
首を捻りながら、ザインは声を張る。
「次! 魔撃を行う訓練だ!」
「は、はい!」
わくわくで沸騰しそうなリイは、ちいさく跳ねた。
頭は焦げてるけど。
くちゃいけど。
魔法使いになれるなら、ちょっと頭がチリチリくらい我慢する!
きたれ、すんばらしい異世界転生!
目がきらきらになってると思うリイを見ないようにしながら、闘技場の真ん中で、ザインは燭台と蝋燭を取り出した。
「まず、この炎に集中しろ」
ザインが指先をかざすだけで、ぽん、と火が点いた蝋燭に、リイは首を傾げる。
「集中?」
「炎に意識を集中させる。
己のなかにある炎を感じ、炎と一体になる感覚を習得する。
できたなら、炎が意のままに操れるようになる」
「……ほへえ」
え、いやそれ、漫画の世界じゃなくて?
現実なの?
「だからその顔でその感嘆詞は止めろ。
炎が揺れたら合格だ。
やってみろ!」
ほ、ほんとにできるのかな?
できたら俺も、魔法使い!
ルフィスとおそろいだ!
わくわくしながら、蝋燭の炎を見つめる目に力を籠める。
「ふん!」
リイの目の前の蝋燭の炎が、ほんのかすかに揺らめいた。
「うわあ! ゆ、揺れましたよ!」
跳びあがって喜ぶリイの隣で、残念なものを見つめる瞳でザインが吐息する。
「………………鼻息だ」
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