【完結】きみの騎士

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まほうつかい?

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 正妃のご息女であられるレミリア様と、第二妃のご息女であられるロエナ様には、同じレイサリア光国王女殿下であらせられても歴然たる身分差が存在する。

 レミリア様は正式な王女殿下として崇敬されるが、ロエナ様は最高位の貴族のご令嬢くらいの感覚だ。

 だからと言って、お目にかかるだけでも畏れ多いのに!


 ひきつるリイの首を、キールの太い腕が羽交い絞めにする。
 低いキールの声が、囁いた。

「知らぬのか。
 光騎士は、ひめさまと色恋し放題だ」

 冗談だろうと笑ったリイに、キールはしかつめらしい顔で首を振る。


「新入りは更にもてる。そのうえ、その顔!
 来期は見てろ、リイ!」

 指されたリイは、廊下を通る貴族の注目を無駄に集める事態に引き攣った。

 決勝戦で負けた鬱屈した思いを隠すことなく、それでも笑ってくれるキールを見あげて、笑う。

「待ってる」

 目を瞠ったキールの眦が、朱に染まる。
 口元をごつごつの手で覆ったキールの鳶色の瞳が、さまよった。

「…………まさか、俺を落としにきてないよな?」

「当たり前だ!!」

 拳を握っておいた。




 リイの一日は、古参光騎士の後をついて歩くことに始まり、暗記すべきことを簡単な字で書き直したものと睨めっこすることで終わる。
 その合間に光騎士必修の礼節、心身、武芸の鍛練が組み込まれた。

 合間にルフィスを知らないか、そこらにいる皆さんに聞いて回っている。

「知らないなあ」

 言われるたびに涙が出る。

 でも、絶対あきらめたりしないから!
 もうちょっとだけ待ってて、ルフィス!


 侍女の皆さんにも聞きに行きたいのだけれど

「頼むから止めてくれ――!」

 涙目のザインに止められた。

「そ、そんなに礼儀作法がなってませんか」

 悄気たらザインは首を振った。

「その顔で女性に声を掛けまくるとか止めてくれ。
 光騎士の評判が爆下がりする――!!」

 ……………………そこまでぶさいく………………?

 涙出たよ。





 王宮の外れにある光騎士鍛練用闘技場には、強固な魔壁がそびえ立つ。
 真円の無骨な石造りの闘技場は、魔撃や激しい攻撃にも耐えるという。

 観客席など勿論ない。
 白茶の土が敷きつめられた、青い天に抜ける広大な闘技場だ。

 土埃の舞う静かな、ただ鍛錬するためだけの闘技場を、リイは一目で気に入った。


 鍛錬するから平服を着て来いって言われたんだけど、なぜか不吉な予感がする……

「千年光国レイサリア光王直属光騎士たる者、魔撃の攻防ができなければ意味がない。
 叩きこんでやるから、覚悟しろ!」

 光騎士団長ザインの恫喝に、リイは口を開けた。

「ま、魔撃とか使うんですか?」

 至光騎士戦では、一切の魔術が禁止されている。
 魔撃も治癒魔術も禁じられており、武芸のみで戦うことが必須だ。

 魔法が使えるとか憧れだけど、まさか自分が使えるとか思ったことさえなかったよ!

 も、もしかして、憧れの魔法使いに……?

 しょっぽい異世界転生が、もしかしてもしかしたら、ちゃんとしてくれるかも――!

 希望できらきらの目になったのだろうリイに、ザインは慌てたように目を逸らした。


「だから俺に可愛い顔をするな――――!!」

 ――……今日も上司は叫んでます。

 謎!






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