きみの騎士

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ごあいさつ

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「姿絵で拝見していました。
 お目にかかれるなど夢のようです、花のきみ」

 口をあけて見蕩れるなんて、光騎士としてあるまじき振る舞いだけれど、レイサリアの花のきみにだけは許して欲しい。

 白き衣をひるがえし、左手を胸に、右足をついて跪き、敬礼した。

 たおやかな指があがるのを気配でとらえ、敬礼を解いたリイは、うやうやしく両手を差し出した。

「お捜しの栞はこちらですね。
 どうぞ、ひめさま」

 金の栞を受けとったレミリアが、リイを見あげる。


「……風みたい」

 ささやくように紡がれた、ちいさな鈴の声が、鳥の歌に溶ける。


「え?」

「リイね。
 至光騎士戦、決勝戦を見ました。素晴らしかった」

 レミリアさまのくちびるが、名を呼んでくれた――!

「あ、は、はい! あ、あのあの、あ、ありがとうございます!」

 まさか御覧になられてたなんて!
 レイティアルト王太子殿下しか告知されなかったのに!

 あわあわ頭をさげたリイに、レミリアは花のかんばせで笑った。


「内緒で行ったの。公にすると警備が大変だから。
 お兄さまは知ってるから大丈夫」

 おひめさまは見かけのたおやかさに似合わず、冒険がおすきなのかもしれない。

 花の頬がふくれて、リイを見あげる。


「挨拶に来てくれなかったわね」

「い、いえ、あの、高貴なひめさまに謁見できるのは、光騎士の作法が身についてからだと厳命を受けました。
 どのひめさまにも、ご挨拶はまだ」

「じゃあ、私がいちばん?」

「はい!」

 胸を張ったレミリアは、細い指を腰にあてた。


「挨拶して」

「は、はい――!」

 緊張にふるえる足で、リイは再び跪く。


「ミナエ村から参りました、ゼトが子、リイにございます。
 第二五七八回至光騎士戦で優勝し、光騎士の称号を賜りました。
 レイサリア光国王女殿下レミリア様にご挨拶申しあげます。
 王女殿下のお傍近くにお仕えすることをお許しくださいませ」

 まだ慣れない最敬礼に、レミリアの唇がやわらかに弧をえがく。


「わらわレミリア・レファーリア・レイサリアは、汝リイを光騎士と認め、わらわの傍近く仕えることを許します」

「我リイ、心身を賭して王女殿下レミリアさまにお仕え申しあげます」


 花の指が、リイの額にふれる。


「ほんとうね?」

「は、はい!」

 きらめく星の海の瞳で、笑ってくれる。


「約束ね」

「はい!」

 熱くなる頬で、誓った。


 ちいさな手をふって、ひるがえる白き衣が遠くなる。

 まぶたの裏に、星の瞳がひらめいた。


 ひとたび覗いた者を、とりこにする

 あなたが、レイサリアの花のきみ。






 生き物として、同じ種族と思えない――!

 ぽかんとレミリアを見送ったリイは、鐘の音に慌てて光騎士殿まで駆けた。

 息切れすることもなく豪速で駆けてきたリイに目を剥いたザインは、ぽ――――っとしているリイに首を傾げる。

「どうした。
 精霊でも見たような顔をしてるぞ」

「ああ、ほんとうに精霊かもしれませんね……!」

 こくこく頷くリイに、ザインは頭を抱えた。


「…………もうちょっとふつうの新人がよかったよ…………」

 上司が色々酷いです!!




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