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噴水の向こう
しおりを挟む「すごい!
コルタ、美少年なだけじゃなくて、魔法も使えるのか!」
目をきらきらさせたリイが駆け寄って、闘う気満々だったコルタの闘気が霧散する。
「え、えへへへへ。
そ、そう?
僕が得意なのは防御魔法なんだけどね――あ、リイ、ご飯早く取ってこないと、お昼の定食なくなるよ!
こっち!」
コルタが手を引いてくれる。
「ありがとう、美少年コルタ!」
胡桃の目をまるくしたコルタは、とろけるように笑ってくれた。
コルタの掴みは、ばっちりかもしれないよ!
「……うわあ……コルタの会心の笑み、初めて見た――!」
「コルタがご令嬢以外に微笑むなんて、明日は猛吹雪だぞ!」
「ふたりでいると、凄まじいな……」
「あのふたりの顔面、おかしくないか!?」
ざわつく衛士や騎士たちの呟きは、
「肉だんご定食、最後の一個だよ――!!」
おじちゃんの声と、
「お願いしますぅうう――――!!」
リイの叫びに掻き消えた。
肉団子はボリューム満点、みっしりお肉が詰まっていて、甘辛いタレと絡んで最高だった。
お腹いっぱいになったけど、まだ鐘は鳴らない。
ザインを見たら『こっちに来るな』光線を出された。
上司が酷いです!!
コルタも忙しいみたいだし、仕方なくリイは王宮の庭を散策することにした。
光騎士殿は、レイサリア王宮のどこからでも見える尖塔を擁している。
あれなら迷うことなく辿り着ける、はず!
どこを見ても同じ建物、どこを見ても同じ庭、迷宮に迷い込んだように、方向感覚さえおかしくなる。
月光石が、リイの後ろで結んだ髪をひと筋まで映し出す。
歩くたびにひるがえる光騎士の衣は銀の刺繍に彩られ、光の軌跡を描きゆく。
かすかな水音が聞こえて、リイは足を止める。
清らな水を湛えた噴水が、やわらかに天を飛沫で染めあげた。
春の陽に、水が透ける。
あたりにはちいさな虹が、七色の光を振りまいた。
「わあ……!」
思わず拍手した時だった。
春の風に乗り、ちいさな金が舞う。
目を瞬くリイの手のなかに、かろやかに金が落ちてくる。
「……え?」
あわてて見つめた薄い金箔のようなものを陽に透かしたリイは、息をのむ。
咲き初めるセレネの花が透ける飾り文字は――――
「…………あ」
風に攫われた栞を探して駆けてきたのだろう、白い靴が止まった。
やわらかに波うつ金糸の髪が、風に舞う。
春のひかりに透きとおる紫の瞳が、星の海のようにきらめいた。
細い眉はたおやかに弓をえがき、セレネの花のくちびるが、すこし力を入れると壊れてしまいそうな頤のなかに佇む。
見つめた瞬間、時が止まった。
「…………レミリアさま」
リイの唇からこぼれた名に、星の海の瞳が丸くなる。
「どうして名を――……あ、栞?」
セレネの花の向こうに透けた名は、レミリア。
レイティアルト王太子殿下の妹ひめ、レミリア様だ。
レイサリア光国の馨しき花と謳われるレミリアの星の海の瞳は、ひとたび覗いた者を、とりこにするという。
透きとおる肌は春の雲のように、頬の薄紅を一層あざやかに見せた。
春のひかりの微笑みは、すべての光国民に、このうえない恍惚をもたらす。
ド田舎のド辺境、秘境ミナエ出身のリイでさえ、その噂を聞いたことがある。
光国の民なら誰もがお慕いする王女殿下レミリアさま、レイサリアの花のきみだ。
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