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初出勤!
しおりを挟むコルタが、最も階段から遠い部屋、つまり最もお手洗いから遠い部屋、これぞ新人の部屋の扉を開けてくれる。
「ここがリイの部屋。
魔法で鍵が掛かるから、リイ以外は入れなくなる。
女の子を連れ込んだりしないように!」
コルタが片目を瞑って、リイはぶんぶん頷いた。
足を踏み入れた部屋は、リイの家くらいの広さがあった。
白い石でつくられ、金銀の縁取りと猫足で彩られてはいるけれど、たぶん貴族にしてはめちゃくちゃ簡素なのかもしれない。
リイにとっては、めちゃくちゃ豪華だけど!
ふかふかの寝台!
天蓋がついてるよ!
「ほえぇ」
口を開けるリイに、コルタが吹き出して笑った。
「ははは!
可愛くて楽しい後輩が入ってきてくれてうれしいよ。
僕は隣の部屋だから、何か困ったことがあったら、いつでもどうぞ」
「ありがとうございます!」
ぴしりと頭をさげた。
部屋でお湯のシャワーが出ることに感動して、石鹸の花の香りに仰け反った。
賄いのおばちゃんにご飯を戴いたら、傾いた陽が落ちてゆく。
夜が降りた部屋で、窓の外を覗いたリイは、目を瞠る。
「光ってる!」
月の光を受けたレイサリア王宮が、星のようにきらめいていた。
まるで石が発光するように、やわらかに光を明滅させる。
ほのかな光が王宮を包む姿に、息をのむ。
「……光国」
呟きは、夜に溶けた。
銀糸で彩られた天蓋に包まれた、ふかふかの寝台は落ち着かない。
「…………ばあちゃん、じいちゃん、シリウス、父ちゃん…………元気かな」
囁いたら、涙が出そうになる。
「もうすぐ逢えるよ、ルフィス」
伸ばした指は、闇を掴んだ。
ぴっしり熱い鉄のこてを当てられた、ぴかぴかの光騎士の装束に袖を通したら、出勤だ!
コルタが教えてくれた光騎士殿は、王宮のどこで暴動が起きてもすぐ駆けつけられるように、広大なレイサリア王宮の中央にある。
『真ん中にある、でっかい建物だから、すぐ解るよ』
教えてくれたコルタの言葉通り、聳え立つ白亜の遺跡みたいな建物に、あんぐり口を開けた。
「…………パルテノン…………?」
見たことないけど!
物見櫓を兼ねているのか、5つの尖塔に彩られ、天を目指すような佇まいに、口を開けるしかできない。
呑気な秘境で育ったリイだが、前世の記憶があるから『……似たようなのを知ってる気がする……』で仰け反るだけだけど、父ちゃんが見たら腰を抜かすと思う!
口を開けたままのリイの肩を、ぽふりと分厚い掌が叩いた。
「よお、リイ。
よく来たな!」
白い歯と鋼の瞳で、いつかい風貌を緩めて笑ってくれるのは、リイの勝利を宣言してくれた光騎士団長だった。
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