【完結】きみの騎士

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また逢おうね

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「ばあちゃん、シリウスをありがとう。
 これ御礼、少ないけど受け取ってください」

 木の実饅頭と一緒に金貨の袋を差し出したら、ばあちゃんは木の実饅頭だけもらってくれた。

 やさしい目尻の皺を深くして、ぽふぽふ、頭を撫でてくれた。


「だめだよ、ばあちゃん、もらってくれないと」

 金貨を渡すと、ばあちゃんは首を振る。
 木の実饅頭をもぐもぐ食べて、にこりと笑った。


「ここに、置いてくからね。
 使ってね」

 ばあちゃんの家の玄関に金貨の袋を置いたリイが笑う。


「シリウスも、ほんとにほんとにほんとにほんとにありがとう。
 これ、少ないけど、お礼ね。
 人間と何かあったり、人参食べたくなったりしたら使ってね」

 シリウスの首に金貨の袋を結わえつける。
 透きとおる青の瞳が、とてもいやそうに眇められたけど、見なかったことにした。


「ばあちゃん、シリウスを森に返す」

 リイの言葉に、シリウスの瞳が、リイを見つめた。


「俺のはじめての、唯一のともだち。
 今までほんとに、ありがとう」

 深く、深く、頭をさげる。
 ぽふりとシリウスの頭がリイの頭に乗った。

 くすぐったくて、うれしくて、さみしくて、涙が出る。


「シリウスは森の馬。
 俺の馬じゃないって、解ってる。
 またミナエに戻ってきたら、遊んで!」

 ぎゅう、とシリウスを抱きしめる。
 シリウスの鼻息が、リイの髪を揺らした。

 あったかい。
 もう馴染んだ鼓動を、抱きしめる。


「ありがとう、シリウス」

 涙と笑った。




 ばあちゃんが、リイの手を引いてくれる。

 その足にはリイが作った草の靴が履かれていて、目を見開いたリイは照れ臭く笑った。

「今度ばあちゃんに靴を買ってくるね」

 微笑んだばあちゃんが首を振り、草の靴でうれしそうに歩いてくれる。

 ばあちゃんが手を引いてくれると、いつもの山が、いつもの森が、隠された顔をそっと見せるように、大気が変わる。

 緑は深くなり、鳥の囀りが遠くなり、虹の蝶が羽ばたいた。
 森の大気が澄み渡り、輝くおもての泉が現れる。

 …………お別れだ。

 思うと涙と鼻水でぐしゃぐしゃになりそうだから。


「また、逢いたい」

 ぎゅうぎゅう、シリウスを抱きしめる。
 透きとおる青の瞳で、シリウスはリイを見つめた。

 はむ。

 シリウスがリイの髪を噛んで、涙が笑顔に変わる。


「元気で!」

 シリウスに、手を振った。

 ぽふりとリイの頭に頭を載せたシリウスは、頬をリイの頬に寄せた。

 ぎゅう、と抱きしめる。

 そっと離れたシリウスが、踵を返す。
 一歩、シリウスが進むたび、森はシリウスを隠すように緑深く枝を伸ばした。


 リイは大きく、手を振った。

 白銀に輝くシリウスが樹々の向こうに見えなくなっても、涙と笑顔で手を振った。





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