きみの騎士

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「ゆくぞ」

 掲げられたキールの剣が、陽の光を跳ね返す。

 息をついたリイは、目を閉じた。
 一瞬の闇が、リイを包む。

 瞼を開いたリイは、剣を掲げる。


「来い!」

 世界から、音が消えた。

 振り下ろされた剣を、止める。

 鋼が鳴いた。

 繰りだす突きの鋭さも、薙ぎ払うつるぎの切れも、今までとまるで違う速さと力に、ふたりで目を瞠り、ふたりで唇の端をあげた。


「うおォオお!」

「ぐ――っ!」

 リイの髪が散り、キールの頬から血が流れた。
 止めたと思った剣の柄でえぐられる腹に、呼吸が止まる。

 突きあげる痛みに、目が霞む。
 血を吐いた。


「ぐ、ぁ――っ」

 斬り返された剣が刺さるのを、かすむ目を見開き、振りあげた剣で止める。

 リイの刃が、白銀に燃えた。

 腹をえぐる痛みと荒い息、痺れゆく腕と滴る汗に、血が滾る。


 じいちゃんとは彼我の差がありすぎて、あまり相手にしてもらえなかった。
 村の子どもも、今まで闘った貴族の子息も、リイの相手足り得なかった。

 けれど、キールは違う。

 誰もついて来られなかったリイの突きについてくる。
 それどころかリイの僅かな隙を狙い、牙を剥いた。

 どくどく、耳元で鼓動がうなる。

 本気で真剣で闘えることに、血が震えるほど、ぞくぞくする。
 自分の剣を止めてくれる相手がいることが、こんなにもうれしい。

 上がりかけた唇の端を、引き締める。


 勝たなければならない。

 ここで負けたら、ルフィスの傍にいけない。


 約束したんだ。

 絶対に、絶対に、ルフィスを守る――!



 刃がしなうほど重なった剣を、下段へと振り下ろす。
 突然抜けた力に体勢を崩すキール目掛け、返す刃で下段から振り抜いた。

 キールの目と手が僅かに遅れる。

 唸りをあげる刃を、突き入れる。


「くっ――!」

 キールが叩きつける鋼を柳のように受け流し、反転したリイが刃を突き入れる。


「――っ!」

 愕然と瞠られたキールの目が、迫りくるリイのつるぎを映した。

 刃の軌跡が、光になる。

 真っ二つに折れた玉光鋼の剣とともに、紅い甲冑が吹き飛んだ。


「ぐぁ――……!」

 逃さない。

 渾身の力で、柄を振り下ろす。


「すまない」

 ドス――!

 首を打たれたキールが、崩れ落ちた。



 折れた宝玉の剣を取る。
 革の巻かれた柄には、まだキールの熱が残っていた。


 衝撃に気絶したキールは、起きあがれない。
 光騎士団長が、リイの手を掲げる。


「勝者、白の騎士! ミナエ村、ゼトが子息、リイ!」

 大地を揺るがす歓声を聞いていた。

 吹きだす汗が頬を伝い落ち、色を失くした手を握る。



 …………勝ったよ、ルフィス…………!



 これで、やっと、きみのそばに


 
 零れる涙と、笑った。





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