37 / 152
決着
しおりを挟む「ゆくぞ」
掲げられたキールの剣が、陽の光を跳ね返す。
息をついたリイは、目を閉じた。
一瞬の闇が、リイを包む。
瞼を開いたリイは、剣を掲げる。
「来い!」
世界から、音が消えた。
振り下ろされた剣を、止める。
鋼が鳴いた。
繰りだす突きの鋭さも、薙ぎ払うつるぎの切れも、今までとまるで違う速さと力に、ふたりで目を瞠り、ふたりで唇の端をあげた。
「うおォオお!」
「ぐ――っ!」
リイの髪が散り、キールの頬から血が流れた。
止めたと思った剣の柄でえぐられる腹に、呼吸が止まる。
突きあげる痛みに、目が霞む。
血を吐いた。
「ぐ、ぁ――っ」
斬り返された剣が刺さるのを、かすむ目を見開き、振りあげた剣で止める。
リイの刃が、白銀に燃えた。
腹をえぐる痛みと荒い息、痺れゆく腕と滴る汗に、血が滾る。
じいちゃんとは彼我の差がありすぎて、あまり相手にしてもらえなかった。
村の子どもも、今まで闘った貴族の子息も、リイの相手足り得なかった。
けれど、キールは違う。
誰もついて来られなかったリイの突きについてくる。
それどころかリイの僅かな隙を狙い、牙を剥いた。
どくどく、耳元で鼓動がうなる。
本気で真剣で闘えることに、血が震えるほど、ぞくぞくする。
自分の剣を止めてくれる相手がいることが、こんなにもうれしい。
上がりかけた唇の端を、引き締める。
勝たなければならない。
ここで負けたら、ルフィスの傍にいけない。
約束したんだ。
絶対に、絶対に、ルフィスを守る――!
刃がしなうほど重なった剣を、下段へと振り下ろす。
突然抜けた力に体勢を崩すキール目掛け、返す刃で下段から振り抜いた。
キールの目と手が僅かに遅れる。
唸りをあげる刃を、突き入れる。
「くっ――!」
キールが叩きつける鋼を柳のように受け流し、反転したリイが刃を突き入れる。
「――っ!」
愕然と瞠られたキールの目が、迫りくるリイのつるぎを映した。
刃の軌跡が、光になる。
真っ二つに折れた玉光鋼の剣とともに、紅い甲冑が吹き飛んだ。
「ぐぁ――……!」
逃さない。
渾身の力で、柄を振り下ろす。
「すまない」
ドス――!
首を打たれたキールが、崩れ落ちた。
折れた宝玉の剣を取る。
革の巻かれた柄には、まだキールの熱が残っていた。
衝撃に気絶したキールは、起きあがれない。
光騎士団長が、リイの手を掲げる。
「勝者、白の騎士! ミナエ村、ゼトが子息、リイ!」
大地を揺るがす歓声を聞いていた。
吹きだす汗が頬を伝い落ち、色を失くした手を握る。
…………勝ったよ、ルフィス…………!
これで、やっと、きみのそばに
零れる涙と、笑った。
応援ありがとうございます!
7
お気に入りに追加
51
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる