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お約束
しおりを挟むシリウスと一緒に闘技場へとやって来たリイは、周りに集まったチャラチャラした貴族令息っぽい男たちに眉を顰める。
え、ほんとに闘う気、ある?
聞きたくなるような、刺繍と宝玉でチャラい、よく言えば貴公子らしい装束に吐息した。
筋肉のつき方を見ても、鍛錬してきたようには、あんまり見えない。
リイもそれほどつくほうじゃないけど、みっしり締まった身体は、見る人が見れば解ってくれると思う。
希望だよ!
「あーあ、また平民が来たぞ」
「王帝陛下も酔狂だよね、平民にまで門戸を開くだなんて」
「どうせ我らが優勝するのに」
「愚かな者は、憐れなことだ」
「ははははは!」
嗤う輩が連れている馬とシリウスを比べたリイは、吐息する。
これは言いがかりをつけて、シリウスを奪われる可能性が高い。
思った瞬間、
「分不相応な馬を持っているな」
「我らに献上するなら、目こぼししてやってもいい」
尊大に立ちはだかる子息たちを睨みつけた。
「至光騎士戦では、馬は強奪されるのですか」
近くの衛士に聞いたら、衛士はもごもごした。
建前ではされないことになっているが、貴族たちが権力に物を言わせて平民の馬を取り上げるのは、よくあることみたいだ。
闘技場の隅で悔し気に貴族の子弟を睨みつける平民の姿が、あちこちに見える。
吐息したリイは、ひらりとシリウスに跨った。
「行こう」
囁くだけで、シリウスが駆ける。
「あ、ま、待て――――!!」
貴族の子息たちも馬に乗って追いかけてくるが、駆けるシリウスに追いつけることなく、どんどん引き離され遠くなった。
「はー、やな貴族来た!
お約束だ!
シリウス、森のなかで待っててくれる?
至光騎士戦の時だけ、一緒に来て欲しい」
透きとおる青の瞳で、シリウスは頷いてくれた。
シリウスが森に入ると、森の樹々はシリウスを隠すようにやわらかに枝を広げる。
どんなにちいさな森でも、人の手が作った森であろうと、それは変わらなかった。
「シリウスをよろしくね」
笑うと、シリウスが鼻を鳴らして、森の樹々がさやさや揺れた。
すぐに森に溶けたシリウスを見送ったリイは、手を振ってから闘技場へと戻る。
真っ白に輝く巨大なコロセウムは、見あげると首が痛くなるほどだ。
「すごいなあ」
感嘆しつつ衛士に登録をお願いしようとしたら、まだあの貴族の子弟たちがうろうろしていて、リイを見つけて声を挙げた。
「いたぞ!」
「お前、あの馬をどこにやった!」
ふんと鼻を鳴らしたリイは、後ろで騒ぐ子息を無視して衛士に声を掛ける。
「至光騎士戦の登録をお願いします」
「あ、ああ、解った。
えと、出身は……」
「ミナエです」
「無視してんじゃねえよ、平民が――――!!」
拳を振り上げて向かってくる子息に、リイは眉を跳ねあげた。
「至光騎士戦の前に闘うのは、ありなのですか」
聞いたら衛士がもごもごする。
闘技場のあちこちで蹲る人は、休んでいるのではなく、出場前にやられた人たちらしい。
光国民すべてに開かれた大会なのになあ。
光都はあんなにきれいだったのになあ。
がっかりだ。
しかし、ルフィスに逢うためだ!
がんばるよ!
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