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出発!
しおりを挟むじいちゃんに、深く深く頭をさげる。
「お世話になりました!」
やわらかに仄青い瞳を細めたじいちゃんは、こくりと頷いてくれた。
「だめだったら、またご指導ご鞭撻、どうぞよろしくお願いします!」
垂直に頭を下げたけど、無言だ。
そうっと顔を上げると、じいちゃんの目が吊りあがっていた。
グオォオオァアアア――――!!
凄まじい殺気と威圧が吹きつけて、飛ばされそうになるのを慌てて踏ん張る。
「絶対絶対優勝して、光騎士になる!」
拳を掲げたら、威圧を引っ込めたじいちゃんは、こくりと頷いてくれた。
木の実の饅頭を持っていったら、ばあちゃんはほころぶように笑ってくれた。
「ばあちゃん、シリウスのこと、ありがとう。
至光騎士戦に行ってくるね」
こくりと頷いたばあちゃんは、リイとシリウスの頭を撫でてくれた。
あったかい、しわの手だった。
「いってきます!」
父ちゃんに、頭をさげる。
リイとシリウスを見つめた父ちゃんは、シリウスに頭をさげた。
「リイのこと、よろしくお願いします」
目を瞬いたリイは、父と一緒に頭をさげる。
「よろしくお願いします!」
リイの髪をはむはむしたシリウスは、うむ、と威厳たっぷりに頷いてくれた。
「負けるのは、恥じゃねえ。
気落ちせずに帰って来い」
父の言葉に、ふんとリイは鼻を鳴らす。
「じいちゃんが、絶対勝ってこいって。
絶対優勝して、騎士になる。
絶対、ルフィスの傍にゆく」
握る拳は、すこしふるえた。
鍛錬をこなし身長が伸びるまで、10年も掛かってしまった。
ほんの半日しか一緒にいなかったリイを、ルフィスはもう、忘れているかもしれない。
…………それでも、いい。
ルフィスが忘れていても。
絶対、忘れない。
絶対、絶対、ルフィスを守る。
父ちゃんの手が、頭をぐしゃぐしゃ撫でてくれる。
「気をつけてな」
「うん!」
持たせてくれた木の実饅頭を大切に仕舞う。
「いってきます!」
シリウスの背に乗り、駆けだした。
北の果ての秘境ミナエを抜けて、レイサリア光国の光都へ。
5歳のリイはこの世界のことを余り知らなかったが、15歳になった今も知っているとは言い難い。
なにせ、出身がミナエだ。
美肌と若返りに関心がある人、病や怪我で苦しむ人以外には、とことん無名だ。
そのミナエのなかでも最果てに住んでいたリイに、この世界の常識は乏しい。
それでもシリウスが特別にすんごい馬なことは解る。
盗まれたり、いたずらされたりしないよう、リイは森のなかを進み、森のなかで野営した。
いつもしているので、野営は得意だ。
食べ物の心配も、森を進むならしなくていい。
鳥を射て、食べられる草や果実、茸を食べる。
シリウスは透きとおる青い瞳で、いつも傍にいてくれた。
リイを背に乗せ、遥か遥か遠い光都まで、矢のように駆けてくれた。
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