26 / 152
なまえ
しおりを挟む白銀にきらめく馬を連れて帰ったリイに、父ちゃんは仰け反った。
「ど、どどどうしたんだ、その高そうな馬!」
引き攣る父ちゃんに、リイは胸を張る。
「一緒に来てくれた!
餌は草でいいんだよな? 人参は俺が作るから!」
胸を叩くリイに、父ちゃんは茫然と馬を見あげる。
透きとおる青い瞳を見つめた父ちゃんは息をのみ、慌てたように背を正し、頭をさげた。
「……ありがとうございます。
リイをよろしくお願いします」
うむ、と頷く馬と畏まる父ちゃんに、目を見開いたリイは、父ちゃんと一緒に頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
はむはむリイの髪を馬が食べて、あわあわするリイに父ちゃんが笑った。
「鞍はよくわからんが、手綱を作ってみたぞ!」
「ありがとう!」
父ちゃんが革で作ってくれた手綱をありがたく受け取る。
「つけてもいい?」
ちょっと厭そうにした馬は、リイが乗るには掴まるところが必要だと理解してくれたらしい、渋々頷いてくれた。
馬に乗るのは初めてだったけれど、物凄く頭のよさそうな白銀の馬がリイを乗せてくれる。
落ちないか気をつけながら歩いてくれる姿に、
「ほわぁああ!」
感動した。
いつも地を駆けるリイは、その高さと、一歩馬が足を出す度にかなり揺れることにびっくりする。
「すごい!
高い!
揺れる!
ふぁあああ!」
父ちゃんが見様見真似で着けてくれた手綱を持って、ぽくぽく歩いてもらって、じいちゃんのところにゆく。
白銀の馬の青い瞳を見つめたじいちゃんは、ほんのり唇をほころばせた。
じいちゃんが潰れそうな小屋の裏手にゆき、手に持ってきたのは艶やかな漆黒の馬の手綱だった。
「じいちゃんの馬、かっこいー!」
拍手したら、白銀の馬が鼻を鳴らす。
「あ、もちろんきみもかっこいーよ!
え、えと、女の子? 男の子?」
覗いてみた。
「おう」
男の子だった。
じいちゃんが首を傾げる。
「名前? お、俺がつけてもいいのかな?
希望ある?」
ふるると首を振った白銀の馬が、透きとおる瞳でリイを見つめる。
「……えと、じゃあ……」
青く輝く白銀。
「シリウス!」
ぱちりと馬は目を瞬き、じいちゃんも首を傾げた。
「え、えと、全天で一番明るい、青く輝く星の名前なんだけど……青銀のほうがいい?」
今世の星は、見あげる夜空全部星みたいに輝いてるから、何が何だかわからない。
星に名前があるのかどうかも、天体観測してる人がいるのかどうかも知らないよ。
出したらだめな前世知識だったかも!
ふつうに考えたら『尻薄』みたいに思える?
侮辱になったら大変だ!
悄気るリイに、馬はふるふる首を振った。
リイの髪をはむはむ食べる。
「……シリウスで、いいの……?」
こくりと馬は頷いた。
「シリウス!」
熱い頬で、笑う。
ぽふりとリイの頭に馬の頭が載って、じいちゃんはほのかに唇をほころばせた。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
51
1 / 4
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる