【完結】きみの騎士

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馬!

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「あ、ばあちゃん、裸足だよ!
 足、怪我しちゃう。
 ちょっと待って」

 あわてたリイは、近くの幅広の草を採って、即席の靴を作った。
 よく靴に穴が開いたり、だめになったりするので、代替品は大体作れる。


「これ履いてね」

 リイの手で履かされた草の靴に、ばあちゃんは皺の目じりをさげて微笑んだ。


 ばあちゃんと手を繋いで、山を歩く。
 いつも歩き慣れた、庭みたいに思える山なのに、ばあちゃんと歩くと森の空気が変わった気がした。

 いつもの樹々が翠を深め、鳥の囀りが消えてゆく。
 白や黄に咲く花々は一層香り立ち、歩くたび、世界の輝きが増してゆく。
 舞った蝶は、虹にきらめいた。


 澄み渡る大気に、肌が震える。


「……なに……?」

 目を見開くリイに、微笑んだばあちゃんは、森の奥を指した。

 まるで樹々が秘密を教えてくれるみたいに、枝を広げた気がした。

 新緑が、鮮やかに目を射る。
 おもてが銀にきらめく泉が、さやかな水を湛えていた。

「…………こんなとこに泉なんて、なかった…………あ!」


 泉に口をつけるのは、白銀に輝く馬だ。

 リイがばあちゃんを見あげると、こくりと頷いてくれる。

 …………ど、どう見ても野生の馬……というか、あの、ふつうの馬っぽくないような……?

 馬って、栗毛とか青毛とか芦毛とか、茶とか黒とか白っぽいのであって、白銀はいないような気がするんですが、気のせいですか?

 もしかしてこの世界では白銀はスタンダードなのかな?
 平民なうえにド田舎暮らしだから知らないよ!

 しかし!
 目の前に馬がいる!

 ルフィスの騎士になるためには、馬が要る!!


 おそるおそる白銀に輝く馬に近づいてみる。
 馬はちょっと鼻を鳴らして、リイを見た。

 透きとおるような、青い瞳だった。
 ばあちゃんの瞳に、すこし似ている。

 白銀にきらめくたてがみが、春の風になびく。
 疾駆する様を想像するだけで、うっとりしてしまう馬だった。

 気高さに呑まれそうなリイは、ちいさな手を握って馬を見あげる。


「あ、あの、至光騎士戦っていう一騎討ちの戦いがあって、優勝したいんだ。
 きみを傷つけないように頑張るから、どうか俺と一緒に戦ってください!」

 垂直に頭をさげる。

 当たり前だが無言なので、そうっと顔を上げてみる。
 馬はばあちゃんの方をちょっと見て、リイを見おろした。
 大きな顔が近づいて、リイの髪をはむはむする。

「ほわ!」

 驚くリイに、ばあちゃんが肩を揺らして笑った。


「あ、あのあの、俺と一緒に来てくれる……?」

 こくりと馬は頷いてくれた。

 絶対そうだと思ったけど、リイの言葉を理解してくれているみたいだ。
 たぶん。

 白銀の馬だから!





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