【完結】きみの騎士

持ってくるもの

　囲炉裏の炎に掛けた鉄の鍋が、今夜のご飯の雑穀粥を煮てくれる。
　今日の鍋は、リイが射落とした鳥入りの豪華版だ。

　じいちゃんに鍛錬してもらうようになってから、鳥の動きも、鹿や猪の突進さえ、ゆっくりに見えるようになった。
　畑を荒らしにくる気配も、何となくわかるようになった。

　夜中に跳び起きて、駆け込んで一気に仕留める。
　リイの働きで、最近は肉料理が増えた。

　筋肉増強には、たんぱく質だ！
　鍛錬の一環として、リイはよく食べるようになった。

　屠った命を、大切に戴く。
　きれいごとかもしれないけど、血肉になって、一緒に生きる。


　もりもり食べるリイに目を細めた父は、言い難そうに口を開いた。


「……なあ、リイ。
　村のもんに聞いたんだがな、至光騎士戦では鎧を着て槍を持って、馬に乗って突撃するらしいんだ。
　一騎討ちってやつだな。
　落馬しても終わりじゃない。
　相手が参ったと言うか、気絶するか、戦闘不能になるまで闘うらしい」

「へえ！」

　凄そうだなあ、と口を開けるリイに、父は目を伏せる。


「すまんが、馬も鎧も槍も、用意してやれん」

　当たり前だ。
　生活は苦しい。

　雑穀粥を食べているのに、馬と鎧と槍？
　無理無理無理！

　いや、ここで諦めたらルフィスに逢えない！！


「な、なんとかする！」

　こういう時のための異世界転生だよね？
　なんか、日本の知識で料理チートとかなんとかあるんだよね？

　うなれ、前世の知識！！









　…………………………ち――――ん


　…………何にも思いつきませんでした…………


　だって、醤油っぽいタレあるし、ご飯美味しいし、木の実饅頭も最高だし！
　料理チートは使えない。

　というか、日本酒作るとか、無理。どうやって作るのか解らない！
　味噌は大豆と麹菌？
　麹菌をどこから持ってくるの？　あれ日本の国菌だよ？　日本にしかいないんだよ！

　大体、前世の方が料理は不得手っぽい。
　いつもレンジご飯だったよ。

　そんな記憶はちゃっかりある前世！

　今は鳥も鹿も猪も熊も捌けるうえに、木の実饅頭まで作れるよ！
　今世の方が遥かに上達したとか、これぞ残念な異世界転生！


　異世界転生もの大すきでめちゃくちゃ読んでたけど、実際異世界に転生してみると、前世の知識を生かしてチートというのが、いかに難しいか思い知る。

　だって、お金がないのだ。
　素材もない。
　人脈もない。

　ここからどうするって？



「ステータス、オープン！」


　……………………し――――ん……………………


　父ちゃんの目が痛い！！



　特に何の専門職でもなかったらしい前世の記憶によると、営業スマイルはできる。
　お辞儀もできる。
　激おこな客にはとりあえず、不快な思いをさせて申し訳ございませんも解る。

　それ以外が解らないよ！

　専門的な知識なし、スマホの検索機能なしで、どうやってチートしたらいいのか解らない！


　項垂れたまま眠り、項垂れたまま饅頭を売り、項垂れたまま師匠の家に向かう。

　出て来てくれたじいちゃんは、しょんぼりなリイに首を傾げた。


「じいちゃん、どうしよう！
　鎧と槍と馬がいるんだって！」

　首を傾げたじいちゃんは、頷いた。

　ちょいちょい、家の中に招いてくれる。

　じいちゃんの潰れそうな家の中には、白銀に輝く鎧と槍が鎮座していた。