きみの騎士

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リイのおしごと

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「木の実のお饅頭だよー!
 できたて、ほかほか!
 はちみつたっぷり!
 あまーい、あまーい、お饅頭だよー!」

 籠を背負ったリイが、温泉宿が立ち並ぶ大通りで声を張る。
 いつも売り声を張りあげているからか、リイの声は低く掠れるようになった。


 …………男のふりをしなくたって、誰も女だと思わないな…………

 さみしい風が吹き抜ける。


「お饅頭売りの美少年来た!」

「かーわいーよね」

「お饅頭、鄙びてるけど美味しいよね」

 きゃわきゃわするのは湯治に来ている貴族や裕福な平民のご令嬢方だ。
 お肌がつやつやしているのは、湯あがりなのだろう。
 最も財布の紐が緩む時!


「お饅頭、おひとついかがですか?」

 にこりと営業スマイルを炸裂させたら、


「きゃ――!」

 歓声があがった。

 ???


「僕、かわいーね」

「お手伝い?」

「えらいね」

 にこにこして、頭を撫でてくれる。


「きゃあ! 触っちゃったあ!」

「ずるーい!」

 いやあの、饅頭買ってください。

 思わず差し出したら、ご令嬢方はにこにこして財布の紐を緩めてくれた。


「ありがとうございます!」

 丁寧にお辞儀する。

 前世の記憶が蘇る前は、てけとーだったけど、蘇ったからには社会人の血が騒ぐ、みたいだ。
 そこそこの歳まで生きてたっぽい?

 5歳にしては物をわきまえてる子どもになったと思うよ!
 …………たぶん。


「おお、リイ坊、饅頭売りか!」

「おっちゃん、1個買ってー」

「ははは! 仕方ないなあ」

 髭と太鼓腹のおじさんが、屋台を設営する手を止めて、一個饅頭を買ってくれる。


「御礼に荷物運んであげるよ。
 仕入れに行く?」

「おお! ありがてえ!」

 焼き鳥屋のおじさんは、大量の鶏肉と大量のたれの材料を買うので、大荷物になる。
 ひとりでは運ぶのに四苦八苦していたところをリイが助けてから、饅頭を買ってくれるようになったお得意様だ。


「荷車を買う金がなくてさ、たすかるよ」

 にこにこするおじさんに胸を叩く。


「任せといて!」

 捌かれた鳥と、玉ねぎと調味料、ざかざか革袋に入れられたのをどしどし担いだリイに、周りが仰け反った。


「こ、子どもが荷物に埋もれてる!」

「いや、あれは荷物を運んでるんだ」

「うへえ、さすが女男」

「…………5歳の女の子というのは、成人男性より遥かに力が強い生き物のことなのか……?」

 いつもの呟きを、いつものように聞き流す。

 ミナエの村の人はリイが女だと知っていて、同い年くらいの子どもはリイを女男と囃し立てたり、石を投げたりしてくる。

 ひっっじょ――――に! 不愉快だ。

 しかし!
 今はじいちゃんの鍛錬を受けている!


「喰らえ、女男め!」

 荷物を運んでいるから、投げれば当たると思ったのだろう、石礫を投げた子どもを睨みつけたリイは、一瞬荷物を天へと投げ上げて、飛んできた石を蹴り返した。


「ぎゃあ!」

「いてえ!」

「化け物だ!」

「くそ、女男め!」

 落ちてきた荷物を受けとめたリイは、何事もなかったかのように歩を進める。
 隣で長葱を担いだおじちゃんは、肩を揺らして笑った。


「リイ坊、饅頭もう一個もらうよ」

「まいどあり!」





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