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ぽこり
しおりを挟む無言なじいちゃんは、すんごかった。
枯れ木のような身体のどこから、えげつない威圧と殺気が吹きつけるのか、リイには皆目わからない。
その皺と骨の腕のどこから、見えないほどの速度が叩き出されるのかも解らない。
毎日鍛錬している風ではないのに、じいちゃんの切っ先は見えない。
あんぐり口を開けるリイに、じいちゃんはほんのり唇をほころばせた。
じいちゃんはリイの体力や敏捷性、得意なことと苦手なことを把握するように、リイを走らせたり、跳ばせたり、樹に登らせたり、反復横跳びさせたりした。
いつまでも走り続けるリイに、じいちゃんがあんぐり口を開けて、いししと笑う。
伊達に鹿や猪や熊を相手に格闘していない。
体力と脚力には自信があるのだ。
前世も女で、めちゃくちゃインドアだったような記憶が薄らぼんやりとあるけれど、今世は走り回るのが大すきだ。
身体が軽いのと、若いからもあると思うな。
オンライン小説がないから、引きこもりもつまらないしね!
じいちゃんが潰れそうな家から取り出してリイに持たせてくれたのは、どう見ても木刀だった。
木刀。
……日本とどこかで繋がってるとか、他にも転生者がいるとか、言わないよね?
言わないでくださいお願いします。
元ネタが解らないから、絶対不利だ!!
リイが頭を抱えて吹っ飛んだので、打ち合いでは、ものすごーく、ものすごーく手加減してくれるようになったみたいなのだけれど、それでも見えない。
じいちゃん、すごい。
憧れと尊敬の目で見あげると、じいちゃんはちょっと照れたようにつややかな長い白髪を掻いた。
体力、脚力は問題ないとされたみたいだけど、速さが足りないらしい。
飛んでる鳥とか射れるんだけどな。
突進してくる鹿とか猪とか止められるんだけどな。
動体視力がいまいちみたいだ。
あと、威圧もできない。
じいちゃんの剣が速過ぎると思うよ!
威圧できる人の方が少ないと思うよ!
教えてくれるじいちゃんが無言なので、リイが慮るしかないのだけれど、不思議とじいちゃんが手をちょこっと振ったり、首を振ったり、こくりと頷いたりしてくれるだけで、大体何を言いたいのか解った。
鹿や猪や熊の気持ちが解るようになろうとしてたからかな。うん。
リイの苦手は速さということで、じいちゃんの剣を止める訓練をしてくれることになった。
しかし、見えない。
じいちゃんは物凄く手加減してくれているから、ぽこりと木刀を脇腹とか頭とか喉とか腹とか背中とかにあてられる。
ぽこり。
ぽこり。
はたかれるたび、しょんぼりする。
「も、もしかして、俺、素質ない……?」
しょんぼりするリイに、じいちゃんの仄青い瞳が鋭さを増した。
グオォオオァアアア――――!!
凄まじい殺気が吹きつけて、リイは息をのむ。
「弱音を申し訳ありませんでした――!!」
垂直にさげた頭に、ぽこりと木刀がのった。
「ごめんなさい」
ルフィスを絶対守ると、約束したんだ。
才能がなくても。
弱くても。
絶対、強くなる。
絶対、絶対、ルフィスの傍にゆく。
応援ありがとうございます!
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